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概要

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加齢やけがで関節が傷害されると、股関節や膝関節といった体重を支える関節の場合は歩行に支障をきたすことになります。最終的には壊れた関節を人工の関節に置換する手術があり、これでまた元の痛みのない生活にもどることができます。この10年で人工関節は大きく進歩・発展し、今や日本だけでも13万例以上行われる日常的な手術になりました。術後の回復も格段に速くなり、また長期的に使えるめども立ってきています。しかし、少ないながらも人工関節置換術に伴う重篤な合併症もあって、解決されなければならない課題となっています。中でも人工関節術後感染症はその最たるもので、術者にとっても、患者さんにとっても、これほど残念な結果はありません。一旦異物である人工関節(インプラント)に細菌が付着すると、洗浄し、抗生物質を投与しても、難治性になり、抜去せざるを得なくなることがあります。この感染症を防ぐために、人工関節自体に抗菌性を持たせようと考え、10年前から研究を開始してきました。いろいろな候補の中から最終的に、抗菌素材として銀を選択しました。銀は日用品の抗菌素材として、制汗スプレーから傷テープ、ソックスなどさまざまな製品で使われている抗菌効果の高い無機材料ですが、生体内で使う以上、安全性が最も重要になります。細菌は死滅させ、かつインプラントと接する骨の細胞には障害を与えないような局所銀イオン濃度がどれくらいなのか、どういう形でインプラントに銀をコーティングさせるのか、試験管レベルから動物実験まで、膨大なデータの蓄積が必要でした。骨の成分であるHA(ハイドロキシアパタイト)の中に酸化銀を混ぜ、1400℃の高熱でインプラント表面に吹きつける新技術で目的とする加工が達成されました。細菌が作るバイオフィルムという難治療物質の生成阻害にまで効果があることが分かりましたし、銀は微量で効果を発揮し、かつ毒性は無視できるものでした。そして10年の時が経ちました。厚生労働省管轄の独立行政法人であるPMDA(医薬品医療機器総合機構:TVドラマ「下町ロケット」でもでてきました)より、20例の臨床治験を行うよう指示があり、その術後1年間のデータを解析・報告し、臨床的に高い安全性を示すことができました。そして平成27年9月、京セラメディカル株式会社に製造承認が下り、今年の4月に遂に世界に先駆け、日本での販売が決定しました。標準型の人工股関節に抗菌性能を付与した製品は世界初であり、佐賀大学と京セラメディカルとの産学連携の成果で、10年間の苦労が報われたところです。今後はこのインプラントが一般に使われるようになって、本当に感染症が減ったのかどうかを検証しなければなりません。何万人ものデータの集積が必要です。また人工関節以外でも脊椎インプラントや骨接合材、人工歯根など抗菌にすべきインプラントがたくさんあります。また銀以外でもさらに有効な抗菌素材があるかもしれません。この研究には終わりがないといっても過言はないでしょうし、興味のある研究者が引き続き出てきてくれるよう願っています。佐賀大学医学部整形外科学講座教授まわたりまさあき馬渡正明?世界初の抗菌性人工関節の開発?人工関節臼蓋コンポーネント人工関節大腿骨コンポーネント銀HAコーティング層から銀が溶出するイメージ細菌のバイオフィルム形成プロセス。銀イオンはこのプロセスを阻害し、感染症を抑える。研究紹介11