佐賀大学プロジェクト研究所(SUPLA)

Saga University Project Laboratories

■ナノフォトニクス研究所

研究所名称 佐賀大学 ナノフォトニクス研究所
 所   長 工学系研究科 江良 正直
 研 究 員

大石祐司、山田泰教、成田貴行、坂口幸一

 研究テーマ 高効率ナノフォトニクス材料および素子の開発
 研究概要
 【研究概要】
 シリコンベースの半導体エレクトロニスも、その微細化技術は限界を迎えており、 more Mooreあるいはmore than Mooreたる次世代技術の確立が期待されている。その中の一つが有機フォトニクスである。これは、1990年代に盛んに研究されてきたも のであるが、性能や耐久性に問題が有り、現在では研究は下火になっている。しかし、有機ELをはじめとした有機半導体素子が実用化され、有機材料が耐久性に劣ると いう概念がなくなり、有機フォトニクスを改めて見直す時期がきている。ここでは、多くの知的財産を持つ有機フォトニクスをベースとして、新たな切り口で more than Mooreとなりうる光・量子コンピューティングの基盤材料であるフォトニクス材料を構築することを目的に研究を進める。 研究対象は有機物をメインとするが自己組織性有機-無機ナノハイブリッドも対象とし、キャビティポラリトン、ハイブリッド励起子、 フォトニッククリスタルなど1990年代では取り組まれてこなかった概念のフォトニクス素子を目指して研究を行う。申請者等は、 既にこれらの材料開発に関する基礎的な技術を確立しており、これを実際のキャビティポラリトン・ハイブリッド励起子・フォトニッククリスタルに応用し、 その物性を評価、問題点を抽出し、さらに材料開発にフィードバックすることで、優れたフォトニクス材料の開発を行う。 最終的なアウトプットとしては、キャビティポラリトンは無閾値レーザ及び量子コンピューティング素子、ハイブリッド励起子は光演算子素子など 光・量子コンピューティングの基盤素子およびそれを用いたコンピューティングシステムの構築とする。 この実現のため、有機半導体や光物性の研究者だけではなく、高分子、界面化学などの広い知見を持った研究者によりメンバーを構成した。

【研究計画・方法】

平成27年度
1、超精密Langmuir-Blodgett(LB)膜成膜技術の開発
 本研究の目的を実現する上で、素子作製技術の精緻化が極めて重要となる。現状の薄膜成膜技術では目的とする素子を実現するだけの精度に達していない。 従って、原理的に分子レベルでの精密薄膜成膜が可能なLB法を用い、既に検討を進めつつあるスクイーズドアウト法や引き上げ成長法によるペロブスカイ ト形成法の検討を進め、更なる精緻化を行い目的の素子に必要な精度の薄膜作製を可能とする。本成膜技術は研究所における研究の基盤技術として根幹を担う技術あることから、 早期の実現を目指して研究を行う。

2、光励起キャビティポラリトンレーザ発振
 基盤技術である超精密LB膜成膜技術を用いて、誘電体多層膜上にキャビティポラリトン素子を作製し、その反射スペクトル測定からのポラリトンエネルギーの波長分散を測定し ラビ分裂(キャビティ(微小共振器)のフォトンと励起子との強結合の指標となる)を測定し、フォトンと励起子との強結合を確認する。強結合が達成できたら、光励起による レーザ発振の検証を行う。既に強結合キャビティポラリトンを実現するための微小共振器構造計算は既に確立しており、用いる材料の光学特性の評価を行ったのち、最適化し素子を作製・評価する。

3、有機半導体を導入したペロブスカイト薄膜成膜技術の最適化(ハイブリッド励起子)
 有機半導体層の励起子(フレンケル励起子)と無機半導体の励起子(ワニエ励起子)を強結合させるために、有機半導体を導入したペロブスカイト薄膜作製法を確立する。 既に候補となる有機半導体の選定は先行して進めており、超精密LB膜成膜技術を基盤として、条件を検討することで成膜を可能とする。超精密LB膜成膜技術の開発において 得られた、成膜条件の重要因子に関する知見を流用する。

以上の結果を元に、CREST等の国プロへの応募を行う。

4、素子作製・評価
 薄膜成膜技術の最適化後、有機半導体を導入したペロブスカイト薄膜の成膜を行い、素子を作製する。吸収スペクトルの測定から、励起子結合によるスペクトル分裂を評価する。 さらに作製した素子は電場変調分光法、縮退四波混合などで非線形光学効果測定を行い、3次の非線形感受率や応答速度を評価する。これから結合状態と光非線形性との関係を 明らかにし、より高い光非線形性を達成するための情報を得る。

平成28年度
平成27年度の結果を受けて、具体的な素子開発を目指した研究を開始する。

1、電流励起レーザ発振用有機半導体設計
 本研究の目的の一つであるキャビティポラリトンレーザは最終的には電流励起によるレーザ発振を目指す。電流励起レーザは既に蓄積のある有機ELの 知見に基づいて設計を行う。正孔もしくは電子を発光層に運びつつ、所望の屈折率を有する有機EL材料が必要となることから、 既存の材料では達成できない事態を想定しつつ、有機半導体の設計を行う。また、設計後合成を行い、電荷移動度といった 電気的物性や屈折率の波長分散といった光学的な評価を行う。特筆する点としては、江良が以前より大電㈱と共同研究していた優れた n型有機半導体を用いることにより全てを湿式法で作製でき、常温・常圧で安価に作成できることである。

2、ハイブリッド励起子用有機分子設計
 2種類の励起子(ワニエ・フレンケル)を強結合させる上で、有機層及び無機ペロブスカイト層からそれぞれの励起子を供出する。 これらの励起子が強く相互作用するためには励起子間のエネルギー差を極めて小さくする必要がある。無機ペロブスカイト層に ついては含有するハロゲン組成によって励起子エネルギーを制御できることを明らかにしている。そこで、有機層の励起子エネルギーを 最適エネルギーにするための分子設計・合成を行う。ここで用いる分子としては、低分子系有機半導体・高分子系有機半導体・金属錯体 半導体と幅広く検討できる可能性がある。
 これらが実現した場合、光集積回路化への技術が重要となってくるが、江良は九州大学興教授とこの光集積回路化のための マイクロインクジェット法による回路化に関する研究を進めており、この技術が生かされることになる。
 平成28年度に国プロに採択されていなければ、引き続き申請を行う。

平成29年度
 プロジェクト研究所の最終年度として、キャビティポラリトンレーザや非線形光学素子としてのアウトプットの達成を目指す。 ハイブリッド励起子については、前年度までの研究から課題を抽出し改良することで、研究を進める。

1、電流励起レーザ素子作製
 
 2年間に蓄積した知見を融合し電流励起キャビティポラリトンレーザの実現を目指す。誘電体多層膜ミラー上に電極(ITO・導電性高分子・グラフェンなど)を形成し、 有機半導体及びペロブスカイトポラリトン発生層を成膜して、上部電極形成を行い、素子を作製する。作製した素子は電流駆動し、レーザ発振の評価を行う。 また、よりオリジナリティをだすために、透明電極としては別途研究を進めている希少金属を用いない透明電極をITOの代わりに用いることも考慮している。
 さらに、江良と九大興教授が進めている光ヒューマンインターフェイスに関する研究をこれらの技術に応用できるよう検討を進める。 以上の、キャビティポラリトンによる無しきい値レーザ、ハイブリッド励起子の巨大光非線形性を用いた非線形光学素子、そして光集積回路化技術をまとめ、 以下の図に示すようなヒューマンフレンドリーな光・量子コンピューティングシステムを構築する。

表 次進行と研究課題を表にまとめた
目的素子 研究項目 H27年度 H28年度 H29年度
キャビティポラリトン 超精密LB膜成膜技術  
光励起レーザ発振  
電流励起レーザ発振用有機半導体設計  
電流励起レーザ素子作製    
課題抽出
ハイブリッド励起子 高分子含有ペロブスカイト薄膜成膜技術の最適化  
有機分子設計(低分子・高分子)  
有機分子設計(低分子・高分子)  
素子作製・評価
課題抽出

 本プロジェクト研究所は研究推進おける役割だけでなく、教育への波及効果をもたらすことも視野に入れている。 本研究所では、大学院生を研究に参画させ実験研究を通して、研究者教育・育成を行う予定である。本研究所の研究組織は、 専門分野・研究背景の異なる化学系教員から構築されており、分野横断的な研究が実施される。従って、専門分野への深い 造詣のみならず、境界領域を相互に横断する幅広い知識を身に着けることが必要であり、教育効果も大いに期待できる。

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