多層構造素材を用いた吸着剤の開発に成功

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・ポイント

 福島第一原子力発電所事故では,放射能高汚染水が大量に発生し,その除去剤として人工ゼオライトが用いられている。しかし人工ゼオライトは除去する元素に応じてそれ専用のゼオライトを用いる必要があった。

 人工ゼオライトに変わる「多層構造素材(粘土鉱物)」を吸着材に加工することに成功した。

 吸着性能を測定したところ,放射能高汚染水のみならず,CdやPbなど様々な元素も同時に吸着し,開発途上国での環境浄化に広く使用できる性能を持つことが明らかとなった。

・100%天然素材でできており,環境にも優しい吸着剤である。

 

・概要

 商研テクノ(株)と佐賀大学教育学部の角縁教授との共同研究により,新たな吸着材の開発・吸着性能実験を行なった。

 この新吸着剤は,多層構造素材である粘土鉱物の吸着性を利用したものであり,吸着のメカニズムがゼオライトと全く異なる。膨潤性を持つ粘土鉱物を安定して固化させることはこれまで不可能とされていたため,取り扱いが面倒で,吸着剤には用いられてこなかった。

 しかし今回,粘土鉱物の固化に成功し新たな吸着剤を開発した。吸着実験の結果,この吸着剤は同時にさまざまな元素を吸着することが明らかとなり,しかも原材料は天然物100%のため,酸やアルカリなどを用いず環境にも優しいものである。

 本吸着剤は放射能高汚染水のみだけではなく,アジアの開発途上国で問題となってきている,河川の重金属汚染の浄化にも幅広く役立つことが期待される。

 

・ゼオライト比較した吸着メカニズムの違い

①人工ゼオライト

 例えば人工ゼオライトの カルシウム型は、 半永久負電荷にカルシウムイオン(Ca2+)が担持されている。ここに陽イオン、例えばセシウムイオン (Cs+)が近づくとCa2+が放出されて、代わりにCs+が担持される。

 

②本吸着材(粘土鉱物)

二枚の珪酸塩層の間の層間域にあるH+は周囲に水分子や様々なイオン極性を持つ元素が近づくと,H+が粘土鉱物の結晶の外に出るとともに相関域にH+の代わりに,水分子やイオンが押し入って層間域にキャッチされる。層間域の幅には制限がないため, 大きなイオン半径の元素や有機物質の吸着も可能である。

・吸着剤の性能

■セシウム(Cs)

初濃度100ppmのセシウム溶液からの吸着速度を調べた結果が図1である。

吸着剤23.2525g

溶液量:25ml

 

これから求まる最大吸着率は99.3%

 

 25mlのセシウム水溶液の99.3ppmのセシウム量は,2.4825mg。したがって本吸着剤1Kgに吸着する最大セシウム量は,元素 換算で107gのセシウムを吸着できる計算となる。

 また, 人口ゼオライトは海水では吸着力を発揮できないものも存在するが,本吸着剤は海水でも水の場合とほぼ同等の吸着性能を有する。

 

 例えば,120分の吸着工程を3回繰り返すとすると,99.999%の吸着率が見込まれる。工業的には図2のような装置が考えられる。

 

■ストロンチウム(Sr)

最大吸着率:95.6%

本吸着剤1Kgに吸着する最大ストロンチウム量は,元素換算で86g

 

■カドニウム(Cd)

最大吸着率:99.8%

本吸着剤1Kgに吸着する最大カドニウム量は,元素換算で89g

 

■鉛

最大吸着率:100.0%

本吸着剤1Kgに吸着する最大鉛量は,元素換算で89g

 

 

【本件に関するお問い合わせ先】

    商研テクノ株式会社

〒733-0842 広島県広島市西区井口5-1-9

TEL:082-276-8333  FAX:082-276-6363 

担当:小澤宏海、福光克明

 

佐賀大学教育学部

教授 角縁 進(かくぶち すすむ)

TEL/FAX:0952-28-8229

E-mail: kakubuch@cc.saga-u.ac.jp

 

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