血圧降下薬への展開が期待できる新しい化学物質を微細藻類から発見 ~新物質「サガンヘマテノン」が血圧上昇に関係する酵素の働きを抑制~

【研究者】
代表者:
・生物資源教育研究センター 准教授 川添嘉徳
・農学系海洋エネルギー研究所および「さが藻類産業共同研究講座」准教授 出村幹英
(学外分担者:岐阜大学 高等研究院科学研究基盤センター 准教授 犬塚俊康)
【研究成果の概要】
佐賀市内から単離培養された微細藻類ヘマトコッカスから、血圧降下薬への展開が期待できる新規化学物質を発見し、サガンヘマテノンと命名しました。
微細藻類は、光合成を行う微生物で、その産生物質が、バイオ燃料、食品、サプリメント、医薬品、肥料、飼料などに利用できることが判明し、新しい生物資源として注目されています。佐賀大学のμAB(マイクロエービー)プロジェクトでは、農学部、理工学部、医学部などの異分野の研究者が、微細藻類の様々な利活用の可能性を探索する研究を推進してきました。その一環として、ヘマトコッカスという微細藻類から成分を抽出し、様々な試験を行なってきました。その結果、血圧上昇に関係するアンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを抑制する物質が抽出物の中に存在することを発見しました。そして、物質の構造を分析したところ、新規化学物質であることも判明し、佐賀市のヘマトコッカスに含まれる物質ということから、「サガンヘマテノン(Saganhaenatenone)」と命名しました。

図1. 微細藻類ヘマトコッカスの顕微鏡写真と抽出されたサガンヘマテノンの構造

図2. サガンヘマテノンによるACEの抑制による血圧降下へ期待
【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
ジャーナル:Records of Natural Products
http://doi.org/10.25135/rnp.550.2507.3585
論文タイトル:Saganhaematenones: Novel Bioactive Natural Products, Derived from Haematococcus (Chlorophyceae) dSgH-K1 Strain, that Inhibit Angiotensin-Converting Enzyme.
2025, 19:6, 680-687.
著者:Mikihide Demura, Toshiyasu Inuzuka and Yoshinori Kawazoe
【今後の展開】
ヘマトコッカスは、すでに大量培養が世界中で行われている微細藻類です。それは、ヘマトコッカスが産生する赤い色素アスタキサンチンがサプリメントや化粧品として利用できるためです。ヘマトコッカスは、ストレス環境条件下で培養されると、アスタキサンチンを細胞内に蓄積する性質があります。現在の大量培養では、通常条件での培養期間の後、アスタキサンチン蓄積のためのストレス環境条件での培養期間も必要です。
本研究で発見したサガンヘマテノンは、ヘマトコッカスのアスタキサンチン蓄積前の細胞から抽出したものです。そのため、アスタキサンチン蓄積を待たずに収穫することができ、培養期間を短縮することができます。また、血圧降下作用をもつ微細藻類由来のサプリメントや医薬品はまだ販売されていません。ヘマトコッカスの新しい商品化の一つとして期待されます。
【その他PRしたい特記事項】
佐賀大学μABプロジェクトは、微細藻類バイオマスの利活用からの新産業創造を推進していている佐賀市、また、90あまりの企業団体が参画する一般社団法人バイオサーキュラーエコノミー協議会と密接な連携をし研究を続けてきました。本研究については、一般社団法人バイオサーキュラーエコノミー協議会と本学の共同出願も行っております(特願2023-044355:新規環状化合物、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、その製造方法、およびその用途)。
【researchmapのリンク先】
川添嘉徳(https://researchmap.jp/read0123890)
出村幹英(https://researchmap.jp/demM)
【本件に関する問い合わせ先】
川添嘉徳(ykawazoe@cc.saga-u.ac.jp)
出村幹英(st8148@cc.saga-u.ac.jp)


