本学大学院生が日本農芸化学会トピックス賞を受賞!

この度佐賀大学大学院農学研究科・城間翔大氏(修士課程・生産システム情報学研究室、北垣浩志・准教授指導)は2014年度日本農芸化学会大会においてトピックス賞を受賞しました。

日本農芸化学会は1924年に設立され、会員数が約1万1000人である、農学系で日本最大の学会のひとつであり、食品や環境、発酵などの研究分野を網羅的にカバーしています。

トピックス賞は一般演題約2400題から社会的インパクト、農芸化学らしさ、科学的レベルなどの観点から、実行委員会が27題を選定するものであり、日本農芸化学会からの本研究への高い評価を反映しています。

 

フランスのパスツール博士が19世紀にアルコール発酵が酸素のない酵母の活動過程であることを発見して以来、アルコール発酵における酵母ミトコンドリアは役割を持たないものとされ、その役割に関して研究されてこなかったため、ミトコンドリアをターゲットとした発酵・醸造技術も世界的にも開発されてきませんでした。

 

当研究グループは、より精緻な発酵代謝制御のためにはこの謎を解く必要があると考え、日本酒醸造中の日本酒酵母でミトコンドリアの役割を研究しました。

 

その結果、日本酒醸造過程においても酵母ミトコンドリアは観察され、しかもその一部は液胞と融合して分解を受けている(ミトコンドリアの分解(ミトファジー)が起きている)ことを明らかにしました。この現象は特に、外側を多く削った米で造る吟醸酒で顕著でした(図1)。

 

 

 

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図1 吟醸酒醸造中に起きるミトファジーの観察 (緑がミトコンドリア、赤が液胞、黄色がミトコンドリア分解が起きているところ)

 

このとき、ミトファジーを阻害すると、驚くべきことにエタノールの生産速度、最終濃度共に増加していました。この現象のメカニズムを探るため、炭素フラックスを解析すると、ミトファジーを阻害した株では細胞の構築に回す炭素が少なくなっており、その分エタノールに多く回ってきました。

 

この結果は、ミトファジーを制御すればアルコール発酵中の炭素代謝を変えられることを示すものです。そこで、遺伝子組み換え以外の方法でミトファジーを制御するため、これまでミトファジーを阻害することが知られている含硫アミノ酸を添加してみました。その結果、含硫アミノ酸を添加した区ではエタノール生産速度、最終濃度とも増加していました。一方ミトファジーの遺伝子破壊株ではこの増加が見られなかったことから、含硫アミノ酸を添加することでミトファジーを阻害し、エタノール生産速度・最終濃度を増加させられることが明らかになりました。

 

 

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図2 新たな発酵制御ターゲットとしてのミトファジーの発見とその応用

 

これらの研究結果は、ミトファジーがアルコール発酵中の新たな炭素代謝制御のターゲットであることを初めて示すものです。栄養の少ないバイオマスからバイオエタノールを製造するときには発酵性の低下が起き、また近年生産が増えている麦芽の使用率が低い発泡酒の製造や、米の外側を削る吟醸酒の製造でも発酵性の低下が問題になることが多くあり、それらの技術課題の克服にこの知見が役立ちます(図2)。

 

本研究は米国微生物学会誌「Applied and Environmental Microbiology」に掲載されました。

日本農芸化学会発表時の城間君

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発表論文

Shodai Shiroma, Lahiru Niroshan Jayakody, Kenta Horie, Koji Okamoto and Hiroshi Kitagaki*

 Enhancement of ethanol fermentation of Saccharomyces cerevisiae sake yeast strain by disrupting mitophagy function.

Applied and Environmental Microbiology, 80 (3), 1002-1012 (2014).

 

用語説明

ミトファジー ミトコンドリアの分解

吟醸酒 米の外側を多く削った日本酒で果実様の芳香を持つ

炭素フラックス 炭素を元素として持つ化合物がどのように代謝されるかを定量的に調べること

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