希少有用植物ムラサキの2018年栽培研究成果報告会を開催します(12月2日)
ムラサキ栽培研究成果の報告
佐賀大学農学部では昨年度より,唐津地域の自治体や農家,高校生,企業などと連携し,栽培が非常に難しいムラサキの栽培を最先端の技術を用いて挑戦しており,今年度,収穫が実現したことを報告いたします。
◆ムラサキとは
ムラサキ(紫,Lithospermum erythrorhizon)はムラサキ科の植物の一種。多年草で,初夏から夏にかけて白い花を咲かせる。ムラサキの根は紫根(シコン)と呼ばれ,染め物の原料や,医薬品などに使用されている。
ムラサキの根「紫根」(シコン)は日本薬局方に収録されており,主要成分はナフトキノン誘導体のシコニン(shikonin),アセチルシコニン,イソブチルシコニンなどであり,抗炎症作用,肉芽促進作用などの創傷治癒促進作用,抗菌作用,抗腫 瘍作用など幅広い薬理作用があるとされ,紫雲膏などの漢方方剤に外用薬として配合されている。最近では,日本でも抗炎症薬として,口内炎・舌炎の治療に使用される。
◆日本の伝統色
ムラサキは万葉集にも歌われるほど歴史は古く,ムラサキの根は重要な紫色染料であった。ムラサキの根を使って染められる紫色は日本人にとって,高貴な色の象徴であり,平安時代には高い身分の人物しか着用できない「禁色」とされており,603年に聖徳太子が定めたといれている冠位十二階では最上位の色とされていた。
平安時代 九州はムラサキの採取地とされ,大宰府政庁が直接管理し,大和朝廷に献上されていた歴史がある。九州北部には「紫」の文字が使われた地名が多くある。
紫根の色素化合物シコニンの化学構造は,100年前に,佐賀出身の日本初の女性化学者「黒田チカ」によって決定された。
◆絶滅危惧種
奈良時代から江戸時代末期まで栽培が行われてきた。しかし,明治時代以降は合成染料の登場により商業的価値を失い,ムラサキの栽培技術も途絶えてしまった。さらに近年の環境変化も伴い,自生するムラサキ自体も減少し,現在は環境省が定める絶滅危惧種レッドデータブックIBにランクされている大変希少な品種となっている。
また,日本古来の純正種は,種の発芽率が低い上,ウイルスなどに弱いため,栽培は大変困難なため,現在では中国から栽培が簡単な同属異種のセイヨウムラサキ(L. officinale L.)が輸入され,ムラサキとして流通している。このセイヨウムラサキとの交雑により日本古来の純正種が脅かされていることも純正種減少の一因である。
◆佐賀大学のムラサキの栽培研究の特徴
佐賀大学の栽培研究の特徴は,ICT技術を活用した,栽培技術の確立である。従来の篤農家といわれる熟練した技術者の経験と勘に頼る栽培方法ではなく,データ分析により,最適な栽培環境を見つけ出し,安定的に高品質な作物の栽培を目指している。
佐賀大学発ベンチャー「オプティム」と連携し,生育過程を数か所に設置した各種センサーで計測,データ化し,最適な栽培条件を導き出す栽培方法を検証している。
これにより,ムラサキの安定的な生産を可能にし,化粧品,染め物,医薬品など様々な分野への安定供給を目指す事で,地域社会への社会実装を実現する。
◆ムラサキを活用した地域貢献
今後は,得られたデータを解析し,栽培に適した環境設定を確立することで,より安定的な生産を目指す。また,栽培方法を確立することで,地域での栽培を推進し,付加価値のある日本の伝統植物を原料とした,ブランド化を図り,地域への貢献と佐賀発のブランドとして世界に普及することを目指す。
◆日本発のブランドを目指して
日本の伝統的な色である,ムラサキは海外での評価も高く,フランス ルーブル美術館で行われる化粧品展示会では高い評価を得ている。色彩だけではなく,その薬効成分も注目されており日本ブランドの化粧品原料として注目を集めている。
ムラサキ栽培研究会(佐賀大学)2018年栽培研究成果報告会
日時:2018年12月2日(日) 13:00~
場所:佐賀大学 農学部附属アグリ創生教育センター唐津キャンパス
式次第
- 渡邉会長 挨拶
- 2018年 栽培結果報告(各者15分程度)
- 佐賀大学農学部
- グレイスファーム
- 唐津東高校
- 佐賀県上場営農センター
- その他
- 唐津市(JCC)八島室長挨拶
- 来年度の目標(渡邉会長)
- 収穫実習(唐津キャンパス,ムラサキ栽培施設にて)
- 質疑応答 (取材対応)
*当日は唐津キャンパスで栽培しているムラサキを実際に掘り起こし,生育状況の検証を行います。
【本件に関するお問い合わせ先】
佐賀大学農学部 教授 渡邉 啓一
TEL: 0952-28-8774