「肥前浜宿の歴史的景観保存とまちづくり」が建築九州賞 業績賞を受賞 四半世紀以上にわたる産学官民連携での持続可能な地域の魅力づくりを評価
国立大学法人佐賀大学(本部:佐賀市本庄町、学長:兒玉浩明、以下:本学)が1990年代より参画し、2022年からは本学の「地域みらい創生プロジェクト 鹿島プログラム」の一環として支援し続けている佐賀県鹿島市肥前浜宿での歴史的景観保存とまちづくりに関わる取り組み(以下:本取り組み)が、このほど、(一社)日本建築学会九州支部より、2025年度「建築九州賞 業績賞」を授賞しました。
毎年選考される建築九州賞には、作品賞、研究新人賞、業績賞、功労賞の各賞があります。業績賞は、九州地方の建築文化の発展に対する多年にわたる顕著な業績を表彰するもので、過去10年間では2021年度のNPO 法人全国町並み保存連盟に続く2例目となります。今回の受賞は、四半世紀以上にわたり本取り組みに関わってきた、本学理工学部三島伸雄教授・NPO法人肥前浜宿水とまちなみの会・NPO法人肥前まちづくりデザイン研究会・鹿島市・佐賀県・佐賀大学が連名で受賞したものです。
2025年5月17日(土) 表彰式にて
左より、鳥海広敬 鹿島市副市長、三島伸雄 教授、
中村雄一郎 水とまちなみの会専務理事、中野工 佐賀県建築住宅課課長
本学では、佐賀大学憲章の理念である「地域と共に未来に向けて発展し続ける大学」を目指し、これからも様々な地域連携のプログラムを進めてまいります。
本学の地域連携プログラムの全体像は、https://www.suric.saga-u.ac.jp/saga_project_map/をご参照ください。
■肥前浜宿とは
「浜中町八本木宿」と「浜庄津町浜金屋町」の2つの重要伝統的建造物(重伝建)群保存地区を有する地区。浜中町八本木宿は醸造町として初めての重伝建選定を受けたもので、酒蔵通りには、白壁土蔵造、洋風建築など、様々な建築様式の町家が並んでいます。浜庄津町は港町、浜金屋町は職人町として栄え、茅葺屋根の町家が立ち並ぶ景観は国内でも貴重なものとなっています。
肥前浜宿もかつては、人口減少や建物の老朽化などで地域社会存続の瀬戸際にありました。危機感を覚えた地元有志により、1990年代初頭から、まちの活性化に向けた活動が始まります。将来も維持が可能なように、伝統的建造物の修復と、そこに暮らす地域住民の日々の営みの再生との調和を、住民の主体的・自発的な取り組みで実現することが、理想的な景観を創り出すとの考え方のもと、地元住民、行政、有識者を巻き込み、三者一体となって、伝統的建造物や河川などのハードの整備に加えて、各種イベントの開催などの社会活性化の活動を進めてきました。
近年は、2011年に日本で初めて企画・実施された「酒蔵ツーリズム」の継続開催や、肥前浜駅の改修、既存物件の利活用による宿泊施設や飲食施設の整備などにより、観光客や移住者の増加といった経済的・社会的効果(インパクト)が顕在化しつつあります。
詳細は、以下のURLをご参照ください。
肥前浜宿水とまちなみの会:https://hamashuku.com/(写真上出典元)
鹿島市ホームページ:https://www.city.saga-kashima.lg.jp/main/324.html(写真中出典元)
鹿島酒蔵ツーリズム:https://sakagura-tourism.com/(写真下左出典元)
鹿島市公式観光サイト:https://saga-kashima-kankou.com/spot/1114
■本取り組みの経緯と本学の関わり
肥前浜宿再生の取り組みは、1999年に完成した「伝統的建造物群保存対策調査報告書」をもとに、鹿島市が2000年に発足した「肥前浜宿ワークグループ」の活動から本格化し始めました。ワークグループには、学術経験者として三島伸雄教授(当時、助教授)が参画し、佐賀県、鹿島市の力強い支援のもと、住民と一体となった活動の体制がつくられました。2001年、ワークグループを母体に「肥前浜宿水とまちなみの会」が立ち上げられ(2005年NPO法人化)、年間行事の計画と実施、修理修景事業、街なみ環境整備事業などの活動が強力に進められていきました。また、建築士会を中心に「肥前まちづくりデザイン研究会」も同時期に発足し(2011年NPO法人化)、景観保存や建物改修に不可欠となる環境整備計画の策定、伝建単価表整備や住民説明会なども並行して行われました。
本学は立ち上げ当初より一貫してプロジェクト全体に関与してきました。特筆すべき点としては、九州でも初めてとなる建築基準法緩和条例の策定、準防火地域の解除(2010年)に関わり、消火栓の面的整備、延焼防止のスプリンクラー設置、二方向避難の整備などにより、茅葺町家等の伝統的建造物の保存修理工事が数多く実現しています。電柱撤去、舗装改修、広場の整備など、歴史的環境にふさわしい環境づくりにも関わっています。また、2つの重要伝統的建造物群保存地区に挟まれる浜川は、洪水・高潮対策で拡幅工事が行われましたが、佐賀県により河川協議会が設置され(2002年)、そのアドバイスを行い、歴史的景観にふさわしい護岸改修や河川流域内の神社・樹木の保存にも寄与しました。
近年は、JR肥前浜駅(2018年竣工)と駅前広場(2019年竣工)、酒蔵や町家の改修による宿泊施設や飲食施設の整備など、歴史的価値を有する建物の新たな活用に向けた建築設計にも関与しています。
延焼防止スプリンクラー 淀川の固定堰
改修後の肥前浜駅 ©Yosuke Harigane
【本件に関するお問い合わせは】
佐賀大学 理工学部(部署)教授・三島 伸雄
TEL: 0952-28-8703
E-mail:mishiman@cc.saga-u.ac.jp