陶芸療法は自律神経機能を安定化させる! ―心拍変動のゆらぎが健やかに変化―

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陶芸療法は自律神経機能を安定化させる ―心拍変動のゆらぎが健やかに変化―

 

【ポイント】

・陶芸療法が、心拍変動解析の観点から自律神経系機能の安定化に有効であることが示された。

・陶芸療法の効果はこれまで質問紙や事例研究によって述べられてきたが、本研究ではポアンカレプロット法を用いて、療法を受けた対象者がリラックスしていることが生理学的に示された。

 

【概要】

 平成24年より佐賀大学保健管理センターでは、精神的な問題を抱える学生を対象に週に1回の陶芸療法を実施している。陶芸療法を実施した芸術療法士や精神科医らのグループは、心拍変動解析を用いて陶芸療法の効果を生理学的に示した。これまで、陶芸療法がどのように自律神経機能に影響を与えているのか、客観的に明らかにした研究はほとんど無く、療法の有効性を示したことは意義深いと言える。

 本研究成果は、2017年11月7日公開のJournal of Mental Disorders and Treatment. Volume 3: Issue 1. doi: 10.4172/2471-271X.1000144.に掲載されている。

 

【背景】

 陶芸療法は、様々な医療機関や福祉施設、学校などにおいて、土を用いて、粘土遊びをしたり、何かを制作し表現することで、心身の治癒やリラクゼーションを目的とした心理療法の一つとして取り入れられてきた。

 近年多くの大学において、発達障害・不安障害・抑うつなどの問題を抱え、履修困難に陥る学生が増加しており、佐賀大学においても同様の傾向にある。保健管理センターでは、そのような学生の心身の状態の改善を目指した支援の一つとして陶芸療法を実施しているが、その有用性を明らかにするために心拍変動解析を用いて研究を行った。

 

【研究手法】

 精神的な問題を抱え保健管理センターに通う学生のうち、陶芸療法のセッションに参加した11名(平均年齢20.6±1.4歳、うち男性6名、女性5名)を対象に、週に一回、陶土を用いて手びねりの技法で器や置物などを作るグループセッションを実施した。

 制作の前と制作後、共に両腕内側に心拍測定のパッドを貼付し5分間の測定を行った。なお、同一対象者が制作を行わなかった場合も、同様に測定を行い、非療法群のデータとした。

 

 人の心拍間隔RR Interval(以下RRI)は自律神経系や内分泌系による調整を受けて、体位、運動、精神活動等の状態に応じて変化する。安静時のような状態においてもその間隔は一定ではなく、そのような周期的な変動は「心拍変動」または「心拍ゆらぎ」と呼ばれている。心拍間隔はゆらいでいるのが正常であり、自律神経機能が何らかの原因で異常がある場合にはゆらぎが消失する。

 心拍変動解析は、RRIの変動(ポアンカレプロット法による2次元解析)(図1)における陶芸療法の前後の変化を求めた。横軸にn番目のRRI、縦軸にn+1番目のRRIをグラフ上にプロットする。プロット散布図の縦軸方向の標準偏差(SD1)、プロット散布図の横軸方向の標準偏差(SD2)、仮想楕円の面積(S = SD1×SD2)を算出し、療法前後での面積の増減を評価した。

 

【研究成果】

 11名を対象に、療法群と非療法群を比較した結果、療法群では、ポアンカレプロットパラメーターのSD1、SD2、Sが有意に拡大した。(p<0.05)。非療法群では、いずれの数値も有意な変化は見られなかった。

 また、本研究での陶芸療法が有効であると思われる場面での共通した条件として、①参加者が制作に興味を持っていること。②土に触れることに違和感や不快感がないこと。③言葉でのコミュニケーションが苦手と感じている参加者にとって、制作の場が落ち着く場となり得ること。④自身で制作したものが完成し、作品の出来栄えに満足が得られること。⑤制作中に現れる形や表現の方法によって、そこに投影された自身の願いに気付き、新しい自分を発見できること。等があげられた。

 

【今後への期待】

 本研究では、陶芸療法の効果が客観的に示唆された。様々な心身の問題を抱える人々に対して、より有用な支援となるべく、さらに検証を重ねることも重要である。

 発達障害を抱える児童や青年期の人々、また、症例別の精神疾患に関する具体的支援や、認知症における予防および進行を遅延するための支援の一つとして、今後、有田キャンパスの活用も考えている。

 

【論文情報】

 論文名 The Effect of Pottery Therapy on Heart Rate Variability in College Students with Mental Health Problems

 著者名 中村志織1、曾根崎修司2、林田行雄3、佐藤武4 

     (1 佐賀大学医学系研究科博士課程, 2 九州工業大学, 3 佐賀大学, 4 佐賀大学保健管理センター)

 雑誌名 Journal of Mental Disorders and Treatment 

     Volume 3: Issue 1. doi: 10.4172/2471-271X.1000144. 2017

 公表日 2017年11月7日

 

 

【参考図】

図1.ポアンカレプロット図 

 

  

 

図2.作品例

 

  

 

 

図3.図2の作品を作った時の療法前後のプロット図

 

  

 

 

【本件に関するお問い合わせ先】

  佐賀大学保健管理センター 教授 佐藤武(さとうたけし)

   Tel : 0952-28-8181

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