植物の世代を超えた防御応答: 親の世代でカメムシに加害された次の世代のツルマメは、 種子を急いで実らせる

【研究者】

 代表者:徳田 誠 准教授(佐賀大学農学部・鹿児島大学大学院連合農学研究科)

 分担者:安達修平博士(鹿児島大学大学院連合農学研究科;現在の所属は農研機構 植物防疫研究部門)、

     中林ゆい氏(佐賀大学農学部;現在の所属は京都府立大学大学院生命環境科学研究科)

 

【研究成果の概要】

 ホソヘリカメムシ(以下ホソヘリ)などのカメムシ類に加害されたダイズでは、種子の成熟が遅れ、葉や茎が緑色のままで残る「青立ち」と呼ばれる現象が生じ、収量や品質が低下します。

 本研究では、ダイズの原種であるツルマメでもホソヘリの加害により青立ちが生じるか、また、ホソヘリに加害されたツルマメの次世代ではどのような変化が見られるかを調査しました。

 野外調査の結果、ホソヘリの秋世代の発生時期は、ツルマメの開花期および莢の成熟時期と一致すると推定されました。また、ホソヘリに加害されたツルマメでは、種子の成熟遅延など、ダイズと同様に青立ちの症状が確認されました。

 一方、親世代が蕾から花の時期にホソヘリに加害されたツルマメから種子を採取して栽培した結果、ホソヘリに加害されなかったツルマメに比べて莢の成熟が早くなり、種子数は減ったものの、より大きなサイズの種子を付けました。

 青立ちが発生すると植物の収量や種子の質を低下させるため、植物側には不利益が生じると考えられます。対照的に、青立ちにより植物体がいつまでも青々とした状態で維持されると、加害した昆虫にとっては、より長い期間植物上で生存することが可能になるため、利益があると考えられます。ホソヘリの加害により青立ちが生じるメカニズムに関しては完全には明らかにされていませんが、加害する際にホソヘリが何らかの物質を植物体内に注入することなどにより、植物の生理状態をホソヘリにとって都合が良いように操作している可能性があります。

 一方、加害されたツルマメの次世代で確認された莢の成熟の早期化は、秋のホソヘリの発生時期より早く種子を作り終えてしまうことにより、ホソヘリによる食害から逃れる効果が期待されます。また、一般に種子サイズが大きいほど種子食性の昆虫に対して耐性があることが知られており、大きな種子を付けることもホソヘリの食害を軽減する効果が期待されます。したがって、次世代で見られた莢の成熟時期や種子サイズの変化は、植物側のホソヘリに対する防御応答の可能性があります。

 昆虫に加害された植物の次世代で、昆虫に対する防御物質を多く産生するなど、世代を超えた被食防御応答に関しては過去にも報告例がありますが、今回のような、昆虫の加害を受けた植物の次世代における種子形成時期の変化は極めて稀な現象です。

 

【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】

掲載誌名:PLOS ONE

発行:Public Library of Science

論文表題:Transgenerational changes in pod maturation phenology and seed traits of Glycine soja infested by the bean bug Riptortus pedestris

 

【今後の展開】

 今後、青立ち現象の詳細なメカニズムや、次世代で見られた被食防御応答の詳細が明らかにできれば、ダイズにおける害虫被害の軽減や、マメ科作物における一斉登熟性の付与や種子品質の向上などに貢献できる可能性があります。

 

【その他PRしたい特記事項】

 本成果の一部はJSPS科学研究費(JP17H03947およびJP20K21316:代表 徳田)の助成を受けたものです。

 

論文へのリンク

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0263904 *出版時に有効になります。

 

システム生態学研究室(徳田)HP:

http://systeco.ag.saga-u.ac.jp/Home.html/Home.html

 

【教員活動DBのリンク先】

徳田 誠 准教授 

https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.1e89bf9ca7e18a8f.html

ホソヘリカメムシ(成虫)

ツルマメの未成熟(黄緑色)および成熟(黒色)莢

 

【本件に関する問い合わせ先】

佐賀大学農学部 准教授 徳田 誠

 TEL: 0952-28-8792

 E-mail: tokudam@cc.saga-u.ac.jp

 

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