佐賀大学で開発の新薬が癌予防に有効!

【研究者】
 代表者:医学部血液・呼吸器・腫瘍内科 教授                       木村 晋也
 分担者:医学部血液・呼吸器・腫瘍内科 プロジェクト助教  山本 雄大、他

【研究成果の概要】
 約12〜20%の人間のがんは、がんを引き起こすウイルスによる慢性感染が原因です。また、ウイルス感染した細胞の遺伝子には、錆びのような異常なメチル基が引っ付いていき、遺伝子を攪乱し、がんを発生させます。AKRマウスは人間には感染しない特殊なウイルスを持ち、生後約100日から自然にリンパ腺のがんを発症します。今回、異常なDNAメチル化がこのがんの発症に関与しているか、また、我々が開発中のDNA脱メチル化剤OR-2100がAKRマウスにおいてがんの予防効果を持つかを検討しました。

 従来のDNA脱メチル化剤であるデシタビンは、注射剤しかなく強い毒性を示します。そこで、大原薬品と共同でデシタビンを改良し、飲み薬として使用でき、毒性の少ないOR-2100の開発に成功しました。治療を受けなかったAKRマウスは全て200〜300日以内にがんで死亡しましたが、OR-2100を投与したマウスではがんの発生が著しく抑制され、生存期間も約2倍に延びました。一方、従来のデシタビンは毒性が強く、長期投与が難しいため、がんの発生を予防する効果は認められませんでした。OR-2100の投与により、がん遺伝子 c-mycの発現が抑制され、効果が示すことが分かりました。

 これらの結果から、OR-2100は長期にわたって安全に投与できることが確認され、特にウイルスによって引き起こされるがんの予防剤として有望であることが期待されます。

【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
Springer Nature 社の雑誌 ”Leukemia”(血液学では非常に高ランク)

 【今後の展開】
 今回、がんの予防にOR-2100が有効であることを示せましたが、人間でがんの予防効果を証明することは非常に困難です。証明するには、OR-2100を少なくとも数千人単位で、中年期から20-30年服用してもらい、服用しなかった人たちとの間でがんの発生率に差があるか検討する必要があります。費用の問題などで現実的にこのような臨床試験を実行するのは不可能に近いです。

 我々は九州に特に多い成人T細胞白血病 (ATL)患者さんにおいて、安定している時から急性に悪くなる前に、遺伝子にメチル基が急速に蓄積していることを発見しています。そこで慢性の状態にあるATL患者の遺伝子を調べ、特にメチル基が急速に溜まってきている患者さんにOR-2100を投与し、急性への移行が防げるかというような臨床試験を将来行いたいと考えています(まだ数年はかかります)。

 また遺伝子のメチル化は老化にも密接に関わっているため、OR-2100は老化防止、若返りに有効かもしれないと期待しており、今後マウスでの実験を計画しています。

【その他PRしたい特記事項】
 急性前骨髄急性白血病の前段階にある骨髄異形成症候群では、既に 2022年8月から患者さんを対象にOR-2100の臨床第I相試験を行っています。今後、第II相、第III相と試験を進め、一日も早く患者さんにOR-2100を届けられるように努力しています。

【教員活動DBのリンク先】
 木村 晋也
 https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.69b4741e14a547d0.html

 

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科
 教授 木村晋也
 TEL: 0952-34-2366、 FAX: 0952-34-2017
 E-mail: shkimu@cc.saga-u.ac.jp

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