海苔に含まれるEPAがもつ健康増進機能を引き出すことに成功

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【研究者】

 代表者:濱 洋一郎,光武 進

 分担者や協力者:山形 恵美,高濱 典子,吉村 優花,柳田 凜

 

【研究成果の概要】

 海苔(スサビノリ)にはEPA(注1)などの機能性成分が含まれているが,EPAなどの脂溶性成分の多くはヒト体内で消化吸収されずに,つまり有効利用されることなく排泄されていると考えられている。代表者らは,海苔を麹とともに発酵させることにより,海苔に含まれるEPAがエステル脂質から遊離するとともに,海苔の主要多糖成分であるポルフィラン(注2)が低分子化することを明らかにした。これらの結果,海苔に含まれるEPAが可溶化し,ヒトによって利用可能な状態に変化していることを確認した。

 麹との発酵という簡単な加工操作を加えることにより,生来海苔に含まれている機能性成分であるEPAのもつ健康増進機能を引き出すことができることが分かった。

 

【研究成果の公表媒体(論文)】

Journal of Applied Phycology (2021年10月8日公開)

Liberation of eicosapentaenoic acid and degradation of the major cell wall polysaccharide porphyran by fermentation of nori, the dried thalli of Pyropia yezoensis, with koji

Yoichiro Hama, Emi Yamagata, Noriko Takahama, Yuka Yoshimura, Rin Yanagida, Susumu Mitsutake

 

【背景】

 EPAやDHAのようなn-3系高度不飽和脂肪酸は魚類に多く含有しているが,生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防の観点から,先進国でのそれらの摂取量は不足していることが指摘されている。現在,n-3系高度不飽和脂肪酸は青魚を中心とした魚類から主に調製されているが,海苔などの藻類が高度不飽和脂肪酸の供給源としても注目されている。海苔は,「全脂肪酸の50%前後をEPAが占める」という他に類を見ない特徴を有している。

 麹は,コウジカビなどの微生物を麦,米,大豆などの穀類に接種し繁殖させたもので,味噌,醤油,日本酒など日本の伝統的発酵食品の製造に古来より用いられている。

 

【特徴・今後の展開】

 乾海苔1枚には60mg前後のEPAがエステル脂質として含まれている。乾海苔を麹,塩と混合し30℃で発酵させると,EPAの遊離率が徐々に増加し,8から10週間後には40mg(約3分の2)以上のEPAが遊離していた。同時に,主要な多糖成分であるポルフィランの分解も時間経過とともに進行し,6週間後には約3分の2が分解されポルフィランオリゴ糖へと低分子化していた。これらの結果,発酵前には水系溶媒にほとんど溶け出さなかった海苔に含まれているEPAが,発酵後には容易に可溶化すること,すなわちヒトに利用可能な状態に変化していることが分かった。海苔成分の発酵による変化は,麹に存在する微生物由来の酵素によってもたらされたものと考えられる。

 海苔-麹発酵食品は,海苔に簡単な加工を施すことにより生活習慣病予防やメタボリックシンドローム予防という付加価値を付与することができるので,海苔の新たな利用方法として期待できる。本食品は,味噌と同じように利用でき,非常に美味である。

 さらに,今回開発した方法は,簡便な工程で藻類から遊離の脂肪酸を調製する手段としての応用も可能である。

 

【用語解説】

(注1)EPA:エイコサペンタエン酸。魚類など水生生物に多く含まれる代表的な機能性脂質。必須脂肪酸の一つで,血中の中性脂肪の低下や血小板凝集抑制などのヒトにとって有益な機能をもつ。特定保健用食品や健康食品だけでなく,高脂血症を治療するための医薬品としても利用されている。通常,食品中でEPAはエステル脂質として存在しており,上述のような機能性を発現するためには体内での消化吸収が必須だが,遊離の形状のEPAでは,消化吸収される以前に消化管表面の受容体と結合することで生活習慣病予防などの健康増進機能を示すことが報告されている。

 

(注2)ポルフィラン:海苔などの紅藻類に特有の多糖で粘性がある。海苔の細胞間を埋めており,乾海苔重量の約3分の1を占めている。EPAなど海苔細胞内に含まれる脂溶性成分について,摂食後のヒト体内での動態は詳しく解明されていないが,難消化性のポルフィランを主とする多糖に包まれているので,多くは消化吸収されずに排泄されていると考えられている。ポルフィランが分解されポルフィランオリゴ糖へと低分子化すると,その粘性は低下する。

 

【その他特記事項】

 本論文は,open access形式の論文なので,Journal of Applied Phycology誌のHPから閲覧できる。

 

 

 

【教員活動DBのリンク先】

 濱 洋一郎

  https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.30ad0e9da6b8d863.html

 光武  進

  https://research.dl.sagau.ac.jp/profile/ja.32fede3ca7c10a1f59c123490551be02.html

 

【本件に関する問い合わせ先】

  佐賀大学農学部 教授 濱 洋一郎

  E-mail: hamay (at) cc.saga-u.ac.jp

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