佐賀大学で開発された近赤外ラマン光学活性分光を用いたポーランド・イタリアとの共同研究の成果を発表 〜抗生物質の薬効と副作用に関する新たな知見を提供〜

【概要】
 理工学部化学部門 海野 雅司 教授と藤澤 知績 准教授らは、佐賀大学の独自開発技術である近赤外ラマン光学活性分光を用いた抗生物質の構造解析に関する研究成果を米国化学会の分析化学誌(Analytical Chemistry)に発表しました。この研究は、抗生物質の薬効と副作用に関係する凝集体の形成とその構造に関する新たな知見を提供するものであり、副作用の低減など今後の医薬品開発に繋がる基盤となるものです。

【本文】
 アンホテリシンBは真菌(しんきん)感染症に有効なポリエン系抗真菌薬(抗生物質)の一つです。この薬剤は極めて有効である一方で、副作用が強いことも知られており、これにはアンホテリシンB分子の凝集体形成が関与することが知られています。しかし、凝集状態にあるアンホテリシンB分子の構造を詳細に解析する化学的手法は、これまで存在しませんでした。
 佐賀大学理工学部化学部門の海野 雅司 教授と藤澤 知績 准教授らは、近赤外光励起のラマン光学活性分光 (注1) を用いた色素分子の構造解析法を独自に開発してきました。今回、この技術を活用し、ポーランドおよびイタリアの研究グループとの共同研究により、凝集体形成に伴うアンホテリシンB分子の構造変化を明らかにすることに成功しました。この成果は、米国化学会の分析化学誌(Analytical Chemistry)に発表されました。今後、この研究は薬剤の副作用発現メカニズムの解明や、より安全な医薬品開発につながることが期待されます。

【論文情報】
著 者    : Katarzyna Pajor, Grzegorz Zając, Marco Fusè, Marzena Mach-Liszka, Marta Arczewska, Mariusz Gagoś, Yoshimitsu Onaka, Tomotsumi Fujisawa, Masashi Unno, Malgorzata Baranska, Ewa Machalska
タイトル  : Monitoring the Molecular Conformation of Individual Amphotericin B Molecules in an Aggregated State by Raman Optical Activity
雑誌名     : Analytical Chemistry 97, 11754-11759 (2025)
DOI         : https://doi.org/10.1021/acs.analchem.5c01198

【用語解説】
(注1) ラマン分光は物質に光を照射したときの散乱光を分析し、原子の振動運動を検出する技術であり、物質の詳細な構造情報を提供できる。また、ラマン光学活性分光では、円偏光を用いて通常は区別できない右手分子と左手分子を判別することができる。

 

【問い合わせ先】
佐賀大学 理工学部 化学部門 教授 海野 雅司
 TEL:0952-28-8678 e-mail:unno@cc.saga-u.ac.jp
佐賀大学 理工学部 化学部門 准教授 藤澤 知績
 TEL:0952-28- 8603 e-mail:tfuji@cc.saga-u.ac.jp

戻る

TOP