【共同プレスリリース】骨の減少に喘息が関与することを明らかに 〜アレルギー患者の骨の維持に新たな知見〜

 喘息やアトピー性皮膚炎などアレルギー疾患を持つ人は、骨折しやすいことが知られています。これは治療に用いるステロイド薬が骨を脆弱にするためと考えられてきました。今回、佐賀大学医学部の高玮琦研究員、城戸瑞穂教授らは、熊本大学福田孝一教授、長崎大学筑波隆幸教授、門脇知子教授らとの共同研究で、喘息モデルマウスは、健常マウスと比べて骨量が少ないことを発見しました。喘息マウスの骨は、力のセンサー分子であるPiezoチャネルの発現が少ないこともわかりました。さらに、Piezoチャネルの活性化を行うと喘息マウスの骨量の減少を抑制できました。

 骨が十分な質と量そして強さを保つことは、自立して健康に歳を重ねていく上でとても重要です。アレルギー疾患そのものが将来の骨折のリスクを高める可能性を理解した上で、アレルギー炎症を適切に管理することは、骨の健康を維持する上でも重要であると考えられます。Piezoチャネルはアレルギー炎症に伴う骨減少への治療の標的として期待されます。

 本研究成果のポイント
 ・喘息モデルマウスは骨量が少ない。
 ・喘息モデルマウスの骨減少には骨の力センサーPiezoチャネルが関与する。
 ・喘息モデルマウスのPiezo1チャネルを活性化させると骨量の減少が抑えられる。
 ・アレルギー炎症の適切な管理により骨の健康を守ることが期待される。

本研究成果は、2025年8月29日付の「Communications Biology」誌に掲載されました。

研究の背景
骨粗鬆症による骨折は、健康寿命を大きく損なうことからその抑止は社会の課題です。また、日本人の二人に一人はなんらかのアレルギーを持っているとの調査結果があるほど、アレルギー疾患もまた私たちにとって身近な病気です。喘息やアトピー性皮膚炎を持つ患者は骨が減少しやすいことは以前からよく知られています。これは治療のために用いるステロイド薬が骨を弱めると理解されてきました。研究グループは、アレルギー疾患そのものが骨の量に関与すると仮説を立て、研究を進めました。

 

 研究の成果
 喘息マウス(実験的に喘息を起こしたマウス)の大腿骨や脛骨を健常マウスと比較しました。すると、喘息マウスの骨では、骨が成長する部分の骨梁が少なく、破骨細胞(骨を吸収する細胞)が多く、骨芽細胞(骨を作る細胞)が減少していることがわかりました。

 力が加わると骨が作られることから、メカノセンサー(力センサー)であるPiezoチャネルの量を比較しました。すると、喘息マウスの骨ではPiezoチャネルの発現量が低下していました。Piezo1、Piezo2は骨芽細胞に強く発現していました。超解像レーザー顕微鏡と電子顕微鏡で観察すると、Piezo1は細胞膜表面と小胞体膜に多く存在し、Piezo2は細胞膜表面とゴルジ装置の膜に存在していました。そして、喘息マウスの骨芽細胞では、Piezo1をもつ小胞体とPiezo2をもつゴルジ装置が乏しくなっていることが判りました。

 喘息による骨量の減少を抑制するために、Piezo1の活性化剤であるYoda1を喘息マウスに投与しました。すると、喘息マウスで起こる骨量の減少が抑えられました。また、Piezo2遺伝子の働きが抑制されたマウスでは、喘息による骨の減少がさらにひどく起こることが判りました。

こうしたことから、喘息マウスで起こる骨量の減少に、メカノセンサーであるPiezo1とPiezo2が関与することが判りました。

 今後の展開
 現在の骨粗鬆症の治療薬は、破骨細胞の抑制や骨芽細胞活性化の効果は高いものの、骨を十分に獲得するまでには至っていません。これは、骨量が減る仕組みに不明な点が多く残されているからだと考えられます。本研究の成果が、アレルギー疾患に伴う骨量減少への新たな予防戦略やメカノセンサーを標的とした治療薬の開発へと繋がることが期待されます。

 論文情報
Weiqi Gao, Takeshi Sawada, Ailin Cao, Reiko U. Yoshimoto, Yu Yamaguchi, Yukie Takahashi, Takaichi Fukuda, Yasuyoshi Ohsaki, Reona Aijima, Tomoko Kadowaki, Takayuki Tsukuba, Mizuho A. Kido

Title: Ovalbumin-induced asthma leads to bone loss with Piezo channel suppression in mice. Commun Biol 8, 1309 (2025). https://doi.org/10.1038/s42003-025-08753-x

【研究助成】
 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金「挑戦的研究(萌芽)JP20K21683」「研究活動スタート支援JP24K23594」「日本骨代謝学会フロンティア研究者助成」の支援により実施されました。

【本件に関する問い合わせ先】
 ・研究に関すること
  佐賀大学医学部生体構造機能学講座
   教授 城戸 瑞穂 (きど みずほ)
   E-mail:kido@cc.saga-u.ac.jp

 ・広報に関すること
  佐賀大学メディカル広報室
   〒849-8501 佐賀市鍋島5丁目1-1
   E-mail:hpkoho@mail.admin.saga-u.ac.jp
   Tel:0952-34-3435、3447

  熊本大学総務部総務課広報戦略室
   〒860-8555 熊本県熊本市中央区黒髪2丁目39-1
   E-mail:sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp
   Tel:096-342-3269

  長崎大学 広報戦略本部
   〒852-8521 長崎市文教町1-14
   E-mail:kouhou@ml.nagasaki-u.ac.jp
   Tel:095-819-2007

戻る

TOP