高齢慢性骨髄性白血病における世界初の長期データ、超少量の薬で寛解を維持

【研究者】
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科 教授 木村 晋也
佐賀大学医学部 創薬科学共同研究講座 特任教授 嬉野 博志
岩手県立中央病院副院長 村井 一範 他
【研究成果の概要】
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科の木村晋也教授らのグループは、高齢の慢性骨髄性白血病患者では標準用量のダサチニブ100 mg/日ではなく、超低用量の20 mg/日でも十分に効果を得られることを2021年に世界に先駆けて報告しました。欧米のガイドラインにもこの結果が取り入れられましたが、短期的な効果しか評価できていなかったため、長期的な効果には疑問があるとの批判もありました。そこで5年以上の追跡調査を実施し、高齢の慢性骨髄性白血病患者に対する超低用量ダサチニブ治療が長期にわたり有効で安全であることを示しました。本内容は Blood Cancer Journal にオンラインで5月28日発表されました。
【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
Blood Cancer Journal 誌
【開発の背景】
慢性骨髄性白血病はBCR::ABL1という異常遺伝子が原因の難治性の血液がんです。2001年にBCR::ABL1を特異的に攻撃するチロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブが承認されるまでの治療は造血幹細胞移植に限られ、ほとんどの患者が数年以内に亡くなっていました。しかしイマチニブの登場で予後は劇的に改善され、薬さえ飲んでいればほぼ死なない病気となりました。さらに強力な第二世代薬であるダサチニブが開発され、イマチニブより高い効果が報告されましたが、標準量の100 mg/日を高齢者が服用すると重篤な副作用が多く現れました。そのため高齢患者では投与量を減らして用いることが長年経験的に行われてきましたが、どこまで減量可能かは不明でした。そこで全国25病院が協力して DAVLEC 試験を実施し、高齢の慢性骨髄性白血病患者に対するダサチニブの最適な投与量を探索しました。1年の観察期間で超低用量(20 mg/日)の治療が多くの患者にとって安全で有効であることが示され、2021年には Lancet Haematology 誌に報告しました。欧米の治療ガイドラインにも新たな治療法として紹介されましたが、慢性骨髄性白血病の治療は長期間に及ぶため長期データの確認が必要との注釈(批判)がつけられました。今回、木村晋也教授、佐賀大学医学部の嬉野博志特任教授、岩手県立病院の村井一範副院長らが DAVLEC 試験の長期観察データを収集しました。
【研究の内容】
前治療歴のない高齢CML患者を対象に、ダサチニブを標準量の5分の1に相当する20 mg/日という超低用量で経口投与を開始し、その後、治療効果および有害事象の発現状況に応じて投与量を適宜増減しました。治療開始後12ヶ月時点までの治療効果および有害事象を前向きに評価した DAVLEC 試験に参加した患者を対象として、その後の長期的な治療効果および有害事象を観察することを目的としました。DAVLEC 試験に登録されていた患者を再登録して追跡を行いました。追跡期間の中央値は68ヶ月(約5.7年)でした。急性に悪化しない安定状態とみなせる寛解(分子遺伝学的大寛解)を維持できた患者は89.3%で、遺伝子検査が陰性と判定された患者は56.7%と長期的にも良好な結果でした。約半数の患者が20 mgから増量することなく分子遺伝学的大寛解を達成しました。長期的な安全性については、これまでのダサチニブを用いた臨床試験と比べて有害事象の発生率は大きく変わらず、高齢患者に重篤な副作用が増える傾向も認められませんでした。
【今後の展開】
20 mg/日 という超少量ダサチニブを用いた DAVLEC 試験は世界初の取り組みであり、その長期観察データは貴重で世界中から求められてきました。この結果は欧米のガイドラインが指摘していた長期データ不足を補う形となり、今後、治療ガイドラインへの反映が期待されます。なお、ダサチニブは現在ジェネリック薬として入手可能であり、薬価が下がりました。超低用量での長期治療が広がることで、さらに医療費の削減にもつながることが期待されます。
【教員活動DBのリンク先】
木村 晋也
https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.69b4741e14a547d0.html
嬉野 博志
https://researchmap.jp/hrsn
【本件に関する問い合わせ先】
佐賀大学医学部 創薬科学共同研究講座 特任教授
嬉野 博志
TEL: 0952-34-2366
FAX: 0952-34-2017
E-mail: sr0795@cc.saga-u.ac.jp


