遺伝情報から日本人女性の乳がんリスクを予測 ~ 欧米由来のリスクスコアも日本人女性で一定の有用性 ~


概要
 佐賀大学を含む研究グループは、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)に参加した日本人女性7,965人を平均11.3年間追跡し、遺伝情報に基づく乳がん発症リスク予測手法「ポリジェニックリスクスコア(PRS)」の性能を検証しました。その結果、欧米人を対象とした大規模研究から開発された乳がんPRS「PRS313_BC」が、日本人女性においても最も高い予測性能を示しました。PRS313_BCのスコアが1標準偏差高くなるごとに乳がん罹患リスクは1.64倍となり、スコアが最も高い群では中間群と比べて約2.2倍高いリスクが示されました。

 本研究は、欧米人を主な対象として開発された遺伝的リスクスコアであっても、日本人女性の乳がんリスク層別化に活用できる可能性を示すものです。将来的には、遺伝情報に生活習慣、家族歴、出産歴などを組み合わせることで、個人に応じた乳がん予防や検診戦略の構築につながることが期待されます。

〇 背景
 乳がんは日本人女性で最も多く診断されるがんであり、罹患数は増加傾向にあります。乳がんの発症には、年齢、出産・授乳歴、閉経状況、生活習慣などに加え、遺伝的な体質も関与します。
 近年、多数の遺伝子多型を組み合わせて病気のなりやすさを推定するポリジェニックリスクスコア(PRS)が注目されています。しかし、乳がんPRSの多くは欧米人を中心とする研究データに基づいて開発されており、日本人を含む東アジア人における予測性能は十分に検証されていませんでした。

〇 研究内容と成果
 本研究では、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)に参加した日本人女性7,965人を対象に、欧米人および東アジア人のデータに基づいて開発された計6種類の乳がんPRSについて、将来の乳がん罹患をどの程度予測できるかを比較しました。
 平均11.3年の追跡期間中に152人が新たに乳がんと診断されました。解析の結果、6種類のPRSのうち5種類で、スコアが高いほど乳がん罹患リスクが高いことが示されました。
 特に、欧米人を対象とした大規模研究から開発されたPRS313_BCは、日本人女性においても最も高い予測性能を示しました。PRS313_BCのスコアが1標準偏差高くなるごとに乳がん罹患リスクは1.64倍となりました。また、スコアを3群に分けた解析では、最も高い群は中間群に比べて約2.2倍の乳がん罹患リスクを示しました。

 一般には、対象者と遺伝的背景が近い東アジア人のデータに基づくPRSの方が高い性能を示すと考えられます。しかし本研究では、東アジア人由来のPRSが常に最も優れているわけではありませんでした。この結果は、PRSの性能には遺伝的背景だけでなく、開発に用いたゲノム研究の規模や統計的な検出力が影響する可能性を示しています。

〇 期待される成果/今後の展望
 本研究は、遺伝情報に基づくリスク評価が、特に乳がんの高リスク者を早期に把握する手段となり得ることを示しました。今後は、PRSに加えて、生活習慣、家族歴、出産歴などの情報を統合した予測モデルの開発が期待されます。一方で、より公平かつ正確なゲノム医療の実装には、日本人を含む東アジア人を対象とした大規模ゲノム研究を進め、各集団に適したリスク予測モデルを構築することが重要です。

〇 論文情報
 論文名:Predictive performance of breast cancer risk scores from diverse ancestries: a prospective study in Japanese women
 著 者:Hara M, Hachiya T, Furukawa T, Nishida Y, et al.
 掲載誌:Breast Cancer Research
 掲載年:2026年
 巻号・論文番号:28巻、110番

〇 用語解説
 ・ポリジェニックリスクスコア(PRS)
  ゲノム全体に存在する多数の一塩基多型(SNP)の影響を統合し、個人の遺伝的な病気のなりやすさを推定する手法です。
  単一の遺伝子変異のみでリスクを判断するものではありません。

・ゲノムワイド関連解析(GWAS)
  疾患の有無とゲノム全体に存在する遺伝子多型との関連を網羅的に調べる研究手法です。

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学医学部医学科社会医学講座予防医学分野
  氏名:原 めぐみ
  電話:0952-34-2289  E-mail: harameg@cc.sag-u.ac.jp

 

 

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