がん経験者は骨折リスクが1.4倍 ~佐賀市民1万人を10年間調査し、より正確な骨折リスクを評価~

〇 概要
 佐賀大学医学部社会医学講座予防医学分野の研究グループは40〜69歳の佐賀市民10,330人を10年間追跡した疫学研究により、がんを経験した人は、軽く転んだだけでも起こる骨折のリスクが、がんを経験していない人より約1.4倍高いことを明らかにしました。さらに、現在がんの治療中の人や複数のがんを経験した人、胃がん・腎がん・血液がんの人では、骨折リスクが特に高いことが分かりました。本研究では、がんと診断された時期も考慮できる統計解析方法(時間依存性共変量を考慮したCox比例ハザードモデル)を用いることで、これまでより正確に骨折リスクを評価しました。この研究成果は、国際学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。

〇 背景
 近年、医療の進歩により、がんを経験した後も長く生活する「がん経験者」が増えています。一方で、がんやその治療は骨に影響を及ぼし、骨粗しょう症(骨が弱くなる病気)や骨折のリスクを高める可能性があります。しかし、日本人を対象に、がんと診断された時期も考慮して骨折リスクを詳しく調べた研究は限られていました。そこで本研究では、佐賀市民約1万人を10年間追跡し、がん生存者における脆弱性骨折のリスクを明らかにすることを目的としました。

 本研究では、佐賀市で実施された「日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)」の参加者10,330人を対象に、10年間の追跡調査を行いました。対象とした骨折は、軽く転んだだけでも起こる骨折のうち、大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折、橈骨遠位端骨折です。追跡期間中に、がんを経験していない人では335人、がんを経験した人では51人に骨折がみられました。解析には、がんと診断された時期を考慮できる統計解析方法を用いました。その結果、がん生存者では脆弱性骨折のリスクが約1.4倍高く、現在がんの治療中の人、複数のがんを経験した人、胃がん・腎がん・血液がんの人では、特に骨折リスクが高いことが分かりました(図1)。

             図1:がんと骨折リスク

〇 期待される成果/今後の展望
 本研究の成果は、がんを経験した人に対する骨折予防の重要性を示すものです。今後、がん診療の中で骨密度(骨のつよさ)の測定、骨粗しょう症(骨が弱くなる病気)の評価、転倒予防、運動指導などを組み合わせることで、がんになった人の骨折予防や生活の質の維持につながることが期待されます。また、特に骨折リスクが高いがんの種類や治療中の患者を把握することで、より効果的な予防対策につながる可能性があります。

【本件に関する問い合わせ先】
  佐賀大学医学部 社会医学講座予防医学分野 大学院生 小林孝巨. ss4716@cc.saga-u.ac.jp
  佐賀大学医学部 社会医学講座予防医学分野 教授 原めぐみ. harameg@cc.saga-u.ac.jp.

 

論文情報
論文名:Japanese cancer survivors have a higher risk of fragility fractures over ten years
著者:Takaomi Kobayashi, Yuichiro Nishida, Takuma Furukawa, Chisato Shimanoe, Mikako Horita, Hinako Nanri, Yasuki Higaki, Tadatsugu Morimoto, Keitaro Tanaka & Megumi Hara
掲載誌:Scientific Reports
掲載年:2026年
巻号・論文番号:16巻・14566番

用語説明
・がん経験者
 これまでにがんと診断されたことがある人を指します。がんの治療中の人だけでなく、治療を終えた人も含まれます。

・脆弱性骨折
 骨が弱くなることで、立った高さからの転倒など、通常では骨折しない程度の軽い力で起こる骨折です。本研究では、大腿骨近位部骨折(脚の付け根の骨折)、脊椎圧迫骨折(背骨の骨折)、橈骨遠位端骨折(手首の骨折)を対象としました。

・骨粗しょう症
 骨の量や質が低下して骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。自覚症状がないまま進行することも多く、骨折をきっかけに見つかる場合があります。

・時間依存性共変量を考慮したCox比例ハザードモデル
 追跡期間中に変化する情報を考慮して、ある出来事が起こるリスクを評価する統計解析方法です。本研究では、追跡期間中に新たにがんと診断された時期を考慮することで、がんと骨折リスクとの関係をより正確に評価しました。

 

 

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