MEK阻害剤が、移植における免疫異常を解決することを世界で初めて発見しました
MEK阻害剤が、移植における免疫異常を解決することを世界で初めて発見
1.要旨
・血液がんに対する造血幹細胞移植において、MEK阻害剤のトラメチニブが免疫異常を防ぐことに加え、がんの再発も
抑制できることを世界で初めて発見
・造血幹細胞移植だけでなく、固形臓器移植の成績向上の寄与に期待
2.開発の背景
造血幹細胞移植(注1)では、健康な人(ドナー)から移植した白血球が患者の正常な体細胞を攻撃することにより、
移植片対宿主病(GVHD)(注2)という重篤な免疫異常がしばしばみられる。そのためGVHDを予防・軽減する目的
で、強力な免疫抑制剤を投与するが、それは移植片対腫瘍効果(GVT効果)(注3)をも抑制するため、移植後に血液
がんが再発してしまうことがある。従ってGVHDを抑制するが、同時にGVTは温存する、すなわち「GVHDとGVTを分
離する方法」が長く求められてきたが、これまで確立されたものはなかった。
3.研究の内容
「抗がん剤として開発されたMEK阻害剤を使えば、GVHDとGVTを分離するという夢を実現できる」というアイディ
アに基づき、日本で発見された新規MEK阻害剤トラメチニブを用いた研究を行ってきた。今回トラメチニブは移植時に
厄介なGVHDを抑制する一方、がんを治すのに重要なGVTは抑制せず、結果としてがんの再発を妨げることを世界で初
めて動物実験で発見した。
本研究内容は、米科学誌JCI Insight(電子版)に、日本時間で7月7日午後10時に掲載される。
4.今後の展望
トラメチニブは、悪性黒色腫というまれな皮膚がんに対する治療薬として既に米国および日本で承認されており、そ
の安全性は実証済み。よって、できるだけ早い時期に、GVHDで悩まれている造血幹細胞移植患者さんを対象とした臨
床試験を開始する予定。この方法は固形臓器の移植(腎移植、肝移植など)にも応用できる可能性がある。
注1) 造血幹細胞移植:白血病などに対し、骨髄液や臍帯血など、造血幹細胞(血液の種細胞)を含んだ血液を移植
する治療法。
注2) 移植片対宿主病(GVHD):ドナー白血球が患者の正常な体細胞を攻撃することで、下痢や皮膚、肝臓の障害
などを来す。
注3) 移植片対腫瘍効果(GVT効果):ドナー白血球のがん細胞に対する攻撃力。
5.本研究に関する照会先
酒井敏行教授(京都府立医科大学 予防医学教室):トラメチニブの発見者
一戸辰夫教授(広島大学原爆放射線医学研究所 血液・腫瘍内科):造血幹細胞移植の第一人者
6.問い合わせ先
佐賀大学医学 血液・呼吸器・腫瘍内科 進藤岳郎
T E L :0952-34-2366(医局)、0952-31-6511(病院代表)
F A X :0952-34-2017
E-mail: takeros@cc.saga-u.ac.jp