心不全予備軍の実態調査と、NT-proBNPと睡眠障害の関連について報告しました


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職場健診における心不全予備軍の実態調査と、
心不全のバイオマーカーであるNT-proBNPと睡眠障害の関連についての報告

 

  1. 要旨

 

 ① 職場健診を受診したおよそ2000人の労働者を対象に,心不全のバイオマーカーであるNT-proBNPを測定した結果,

  およそ20%の受診者が心不全もしくは少なくとも心不全の予備軍であるレベルであることが判明しました。さらにQOL

  に関する質問も併せて実施したところ,特に睡眠障害に悩む女性において,睡眠障害がない方と比べてNT-proBNPが

  有意に上昇していることが明らかとなりました。

 

 ② 本研究結果は,2017年7月19日に,Scientific Reports誌に掲載されました。

 

  1. 背景

  NT-proBNPは心不全の診断や治療に用いられる血液バイオマーカーであると同時に,心不全を含めた心血管疾患の

 独立した予後予測因子であり,日常診療に広く普及しています。一般住民においても,NT-proBNPの軽度の上昇は将来

 の心血管疾患リスクと関連していることが知られており,‘隠れ心不全’や‘心不全予備軍’をといった心不全のリスクを

 もっている人を早期に発見し,適切な治療介入を行うことが求められています。

  しかし,NT-proBNPを一般住民や労働者において検査する機会は未だ乏しく,心不全の患者さん以外でのNT-proBNP

 の実態はまだ十分明らかになっていません。

 

 

  1. 研究の概要と結果

  今回の研究は,佐賀県の浦之崎病院(現 伊万里松浦病院)において実施された職場健診において,一般の健診(特定

 健診)と同時にNT-proBNPを追加測定し,睡眠などに関するQOLに関する質問に回答をいただいた2140名(平均年

 齢50歳,男性1332名,女性808名)の一般労働者を対象に,NT-proBNPを中心とした解析を実施しました。

  その結果,一般労働者においてNT-proBNPが軽度上昇しているとされる55pg/mL以上であったのは全体の20%に

 のぼっていることが判明しました。従来の報告にもある通り,NT-proBNP値は男性より女性で高く,年齢や収縮期血圧

 と正の相関があり,総コレステロールやヘモグロビンの値と負の相関が認められました。また,脂肪細胞から分泌される

 タンパクであるアディポネクチンや,心臓の筋肉の障害度を示すマーカーであるトロポニンTなどとも正の相関が認めら

 れました。さらに,QOLに関する質問項目において,睡眠障害の有無を評価するために用いられるPSQIという指標が高い

 (=睡眠障害がある)群において,NT-proBNPが高値であり,その傾向は特に女性において顕著であることが初めて示さ

 れました。

 

 

  1. 研究の意義

  以上の結果より,一般労働者においても心不全のマーカーであるNT-proBNPが少なくとも軽度以上の上昇を有してい

 群が一定の頻度で存在しており,その上昇にはいくつかの他の検査指標と関連しているという実態が明らかとなりました。

 また,特に女性において睡眠障害とNT-proBNPの上昇が初めて示唆されました。

 

  本研究の研究代表である野出孝一 佐賀大学医学部循環器内科教授は次のように述べています。

  「心不全は心臓のポンプ機能が破綻もしくは障害された病態であり,あらゆる心疾患の最終形態でとされています。

 高齢化に伴い今後爆発的に心不全患者さんが増加することが世界中で危惧されており,心不全の発症をより早期に発見し,

 進行を食い止めるための予防・治療戦略が強く求められています。今回の研究を通じて,一般の労働者の方の中にもやはり

 一定の頻度でNT-proBNPがすでに上昇している方が存在していることが明らかとなり,それらの方々における睡眠障害

 なども含めた臨床的特徴が判明しました。特に,睡眠障害とNT-proBNPとの関連はこれまでに報告されておらず新たな

 発見でしたが,そのような関連が特に女性においてなぜ生じているのか,またそのような方々を医学的にどのように管理

 し,不全の予防・治療へ結びつけていくかは今後の課題です。また,今回の研究結果は健診受診時のみの横断的な解析

 でしたが,研究に参加された方々を今後長期間にわたり経過を観察することにより,一般労働者におけるNT-proBNPと

 その後の予後との関連の解析など,更なる知見が今後集まることを期待しています。」

 

 

 

【参考情報】

 

 ○ NT-proBNP

   主に心室において心臓の壁にかかる伸展ストレスに応じて生成・分泌されるペプチドホルモンです。一般的に

  心不全などの心臓に負荷がかかった状態で上昇し,その重症度に比例して血液中の濃度は増加します。

  そのため,心不全の診断や治療効果の判定,さらには心不全を含めた心血管疾患の予後予測因子として臨床で広く

  用いられています。

 

 ○ PSQI(Pittsburgh Sleep Quality Index)

   睡眠障害の評価として広く使用されており,睡眠の質,入眠時間,睡眠時間,睡眠効率,睡眠困難,睡眠薬の使用,

  日中覚醒困難の7要素の合計得点として算出されます。一般的には,5.5点以上が睡眠障害あり,と判定されます。

 

 

 

【本件に関するお問い合わせ先】

   佐賀大学医学部循環器内科 博士研究員 田中敦史,教授 野出孝一

     〒849-8501 佐賀市鍋島5-1-1

      T E L :0952-34-2364 FAX: 0952-34-2089 

 

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