光合成をしないランで世界最大の「タカツルラン」の謎を解明しました!
光合成をしないランで世界最大!タカツルランの謎を解明
【概要】
植物なのに葉をもたず、茶色いツルが何メートルも木を登り、やがて綺麗なランの花を咲かせる不思議な植物。その名もタカツルラン。光合成を行わず、かわりに根に共生している菌類から糖分をもらってくらしています。このように菌類を“食べて”生きている植物は菌従属栄養植物とよばれ、タカツルランはその中でも世界最大です。
佐賀大学農学部の辻田准教授らは、DNAの情報をもとにタカツルランが木材を分解する様々な キノコの仲間と共生していることを明らかにしました。このようなキノコは木材腐朽菌と呼ばれ、 本来植物を分解して暮らしていますが、タカツルランは植物を食べるキノコを“食べる”ランだったのです。このような共生は通常の植物ではあり得ない関係で、しかも多数の木材腐朽菌と共生できる関係は陸上植物ではこれまで知られておらず、今回タカツルランで初めて実証されました。タカツルランは様々なキノコを“食べる”ことで、世界最大の巨体を維持していたのです。
【成果掲載誌】
本研究成果は、米国科学雑誌Molecular Ecologyに平成30年3月に掲載されました。
論文タイトル:The giant mycoheterotrophic orchid Erythrorchis altissima is associated mainly with a divergent set of
wood-decaying fungi
(巨大な菌従属栄養ランのタカツルランは主として多様な木材腐朽菌と共生している)
著 者 :Yuki Ogura-Tsujita, Gerhard Gebauer, Hui Xu, Yu Fukasawa, Hidetaka Umata,
Kenshi Tetsuka, Miho Kubota, Julienne M-I Schweiger, Satoshi Yamashita,
Nitaro Maekawa, Masayuki Maki, Shiro Isshiki, Tomohisa Yukawa
(辻田有紀・G Gebauer・H Xu・深澤遊・馬田英隆・手塚賢至・久保田美帆・
JMI Schweiger・山下聡・前川二太郎・牧雅之・一色司郎・遊川知久)
【研究の背景】
タカツルランは日本では鹿児島県と沖縄県にのみ自生しており、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧IA類に指定されているとても希少なランです。一般に、植物は光合成によって自ら糖を 合成し、それをエネルギーとして生きています。しかし、タカツルランは光合成を行わず、かわりに根に共生している菌類から糖分をもらってくらしています。つまり菌類を“食べて”生きている植物です。こういった植物は菌従属栄養植物と呼ばれ、世界に500種類以上が知られていますが、タカツルランはこの中でも世界最大で、大きいものではツルが10メートル近くも伸びます。菌従属栄養植物のシャクジョウソウの仲間で10センチ程度、ムヨウランの仲間で30センチ前後であり、タカツルランの大きさはずば抜けています。では一体タカツルランはどんな菌類を“食べて”この巨体を維持しているのでしょうか?
【本研究の成果】
私たちは、この謎に迫るべく鹿児島県と沖縄県に自生するタカツルラン26個体について、根の 細胞内に共生している菌類をDNAの情報をもとに特定したところ、合計37種類の菌類を検出し、 そのほとんどは木材腐朽菌でした。本研究では、他にも成分分析によりタカツルランが確かにキノコから栄養をもらっていること、また、フラスコの中でタカツルランとキノコを一緒に培養して、 確かに両者が共生関係にあることも証明しました。
【今後の期待】
タカツルランは原生的な照葉樹林に暮らす植物ですが、本研究でタカツルランが森に生育する 多様な木材腐朽菌に寄り添って生きていることがわかりました。現在タカツルランが生育できるような原生林は、開発によってほとんどなくなってしまいました。本研究成果は、国内でもごくわずかに残された照葉樹林に生きる希少なタカツルランの保全に役立つことが期待されます。
タカツルランの花 木の幹に登るタカツルランのつる
【本件に関するお問い合わせ先】
佐賀大学農学部 辻田有紀
電話 0952-28-8752