力で発光する高感度近赤外応力発光体の開発に成功 ~近赤外発光でインプラントなどの応力集中を高速・広域に可視化~
【概要】
佐賀大学理工学部機械工学部門 上野 直広 教授,物理学部門 鄭 旭光 教授は,国立研究開発法人 産業技術総合研究所センシングシステム研究センター徐超男総括研究主幹らとの共同研究により,力で発光する高感度近赤外応力発光体の開発に成功しました。透過性の高い近赤外発光によって生体内インプラントなどの危険な応力集中を高速・広域に可視化することが可能であり,様々な材料および構造の安全評価への貢献が期待されます。
【本文】
機械工学部門 上野 直広 教授,物理学部門 鄭 旭光 教授と,国立研究開発法人 産業技術総合研究所センシングシステム研究センター 徐 超男 総括研究主幹らとの共同研究チームは,高感度近赤外応力発光体の開発に成功し,実環境での様々な構造体の力学情報の定量観測を広範囲に可能にしました。
これまで共同研究チームは,力で電気を発生する圧電体において,その結晶構造および元素を精密制御することによって,圧電性と応力発光性を併せ持つマルチピエゾ物質を発見し,Advanced Materials, 29, 1606914 (2017)などで論文を公表してきました。
今回は,マルチピエゾ機能を有する物質群で,新たな非対称性強誘電性の結晶構造をもつSr3Sn2O7:Nd3+物質において,世界に先駆けて,超高感度近赤外応力発光体を実現しました。
この近赤外応力発光体は,これまでと比較して10倍高い応力発光強度と繰り返し発光性を有しており,生体をも透過できる強い近赤外応力発光であることから,人工骨や生体内インプラントなどに加わる危険な応力集中を高速かつ広域に可視化することが可能であり,様々な材料および構造の安全評価への貢献が期待されます(次頁説明図参照)。
なお,この研究成果の詳細は,2020年6月25日にAdvanced Materials, issue 25 (2020)に掲載されました。
発表論文 :Ferroelectric Sr3Sn2O7:Nd3+: A New Multipiezo Material with Ultrasensitive and Sustainable Near-Infrared Piezoluminescence
著 者 名 :Dong Tu, Chao-Nan Xu, Sunao Kamimura, Yoichi Horibe, Hirotaka Oshiro, Lu Zhang, Yoshiharu Ishii, Koji Hyodo, Gerard Marriott, Naohiro Ueno, and Xu-Guang Zheng
掲 載 誌 :Advanced Materials, (2020) 1908083.
実現された超高感度近赤外応力発光体は、新たなマルチピエゾ材料となるA21am結晶構造をもつSr3Sn2O7:Nd3+物質であり、人工関節などの生体内インプラントの危険な応力集中を、生体を透過可能な強い近赤外発光によって高速かつ広域に可視化できる。
*応力発光体とは
応力発光体は外部からの機械刺激により発光する材料であり,機械刺激の種類としては摩擦,衝撃,圧縮,引っ張り,ねじりなどがあります。応力発光体は様々な検査に応用できると期待され,橋やトンネル,化学プラントなどのインフラの健全性検査,部品・部材の設計や試験など,展開可能な分野は多岐に渡ります。
*マルチピエゾ物質とは
圧力によって電気を発生する圧電体は古くから知られていますが,2017年に産総研と佐賀大学の共同チームは圧電性と応力発光性を併せ持つ物質を発見し,この圧力(piezo,ピエゾ)による圧電性と応力発光性の同時発現をマルチピエゾ(multi-piezo)と新規に命名し,下記論文を公表しました。
発表論文:LiNbO3:Pr3+: A Multipiezo Material with Simultaneous Piezoelectricity and Sensitive Piezoluminescence
著 者 名:Dong Tu, Chao-Nan Xu, Akihito Yoshida, Masayoshi Fujihala, Jou Hirotsu, and Xu- Guang Zheng
掲 載 誌:Advanced Materials, (2017) 1606914
DOI:10.1002/adma.201606914
[本件に関する問い合わせ先]
佐賀大学理工学部物理学部門
鄭 旭光 zheng@cc.saga-u.ac.jp