生体の低酸素ストレス緩和にあらたな道筋をもたらす新奇化合物PyrzAの発見!
【研究者】
代表者:辻田 忠志 (佐賀大学農学部・鹿児島大学大学院連合農学研究科・講師)
分担者:園田 健登(鹿児島大学大学院連合農学研究科・博士3年)
Sudarma Bogahawaththa(鹿児島大学大学院連合農学研究科・博士2年)
氏家 沙綺(佐賀大学大学院先進健康科学研究科・修士2年)
川口 真一(佐賀大学農学部・鹿児島大学大学院連合農学研究科・准教授)
鈴木 教郎(東北大学未来科学技術共同研究センター・教授)
宮田 敏男(東北大学大学院医学系研究科・教授)
【研究成果の概要】
私たちの体内では微小環境における小規模塞栓が常に形成されては解消されながらも、恒常性が維持されます。塞栓形成は心筋梗塞や脳卒中など虚血性疾患の原因となり、初期の低酸素障害に対する予防や介入法の開発が世界中で進んでいます。
この低酸素状態の感知応答には、Prolyl Hydroxylase Domain-containing Protein(PHD)群による転写因子Hypoxia Inducible Factor-α(HIF-α)の水酸化制御が重要な役割を果たします。常酸素下では、HIF-αはPHD群により水酸化後、ユビキチン化され、プロテアソームで分解されていますが、酸素濃度が低下すると、PHD群によるHIF-αの水酸化度合いが低下し、HIF-αが安定化して、低酸素ストレスに対する防御機構を強力に発動させます。この分子メカニズムを利用して、体を低酸素に暴露せずにHIFを安定化できれば、低酸素障害から組織を保護し、機能回復が加速できると考えられており、多くの研究者が開発に取り組んでいます。しかし、これまで発表された既存のHIF活性化剤はPHD群の活性中心に配位する2-oxoglutarate(2-OG)の類似構造を持ち、2-OGは他のタンパク質の基質としても作用することからも、これら既存のHIF活性化剤の分子選択性を高めることが求められています。
私たちは、大規模化合物ライブラリーから2-OGの基本骨格を持たない新奇化合物5-(1-acetyl-5-phenylpyrazolidin-3-ylidene)-1,3-dimethylbarbituric acid(PyrzA)を発見し、その簡便かつ安価な合成手法も開発し特許を取得しました。
これまで、既存薬ロキサデュスタット(FG-4592)をベンチマークとしてPyrzAの低酸素障害に対する機能解析を培養細胞および、マウス個体において進め、ロキサデュスタットに対して弱いものの低酸素障害を防御する能力を生化学・生理学的に証明しました。
このPyrzAの発見によって、これまでのPHD阻害剤に新たな基本骨格をもたらし、PHDアイソフォーム特異的に作用する化合物の創出が進むことが期待されます。
【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
掲載雑誌名:ACS Pharmacology and Translational Science
発行:American Chemical Society
発表論文題:Prolyl Hydroxylase Domain Protein Inhibitor Not Harboring a 2-Oxoglutarate Scaffold Protects against Hypoxic
Stress
新規な含窒素環状化合物及びその用途, 川口真一, 辻田忠志. 特願2020-174971 2020年10月16日
【今後の展開】
今後は、研究代表者らが設立したテトラクリエイト(株)(佐賀大学発ベンチャー)を介して販売・開発を進めていきます。
【その他PRしたい特記事項】
本成果の一部はJSPS科学研究費(17K19916 および19H04057:代表 辻田忠志)、(19K17746:代表 川口真一)、日本医療研究開発機構創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(JP17am0101095)の助成の一部を受けて実施された研究成果です。
【教員活動DBのリンク先】
辻田 忠志 講師
https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.2456156bb009da6f.html
川口 真一 准教授
https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.87e71361ed3c6aff.html
【本件に関する問い合わせ先】
佐賀大学農学部生化学分野 講師 辻田 忠志
TEL: 0952-28-8771
E-mail: tada@cc.saga-u.ac.jp