【概要】
　理工学部化学部門の高椋利幸教授が、「有機分子の溶存構造に関するミクロからメゾスコピックレベルにおける分析法の開発」の研究業績により、2023年9月14日（木）に公益社団法人 日本分析化学会から学会賞を授与されました。

【本文】
　理工学部化学部門の高椋利幸教授が、2023年9月14日（木）に公益社団法人 日本分析化学会から学会賞を授与されました。また、同日、熊本城ホールにおいて開催された日本分析化学会第72年会で「有機分子の溶存構造に関するミクロからメゾスコピックレベルにおける分析法の開発」という題目で受賞講演を行いました。
　高椋教授は、液体や溶液を分子のレベルといくつかの分子が集合した会合体のレベルという二つの視点（それぞれ、ミクロスコピックとメゾスコピック）で観測し、化学反応に対する影響を解明する研究を行っています。ミクロスコピックな観測では、分子を構成する水素原子や炭素原子などの電子の偏り（電子密度）の濃度や温度による変化を核磁気共鳴(NMR)法で正確に捉える方法を適用しました。また、メゾスコピックな観測では、質量数1の水素原子(¹H)よりも、その同位体である質量数2の重水素原子(²H = D)の方が中性子を強く散乱することに着目し、観測したい分子に重水素原子を含んだ分子を使うことにより、分子の会合状態を観測しやすくするH/D置換小角中性子散乱法を開発しました。
　化学物質の分析における分離や抽出では、1種類の液体よりも2種類の液体を混合して溶媒として用いることが多く、高椋教授が独自な方法で、水や有機溶媒など2種類の溶媒が混合している状態を解明したこと、2種類の溶媒のうち一方の溶媒分子が分離される有機分子を取り囲みやすいことを実験的に明らかにしたことが認められました。また、中性子散乱実験では、茨城県東海村の日本原子力開発研究機構における大強度陽子加速器施設（J-PARC）の物質・生命科学実験施設（MLF）ならびに同機構の実験用原子炉JRR-3という二つの中性子実験施設を利用しており、分析化学における中性子の利用も受賞の理由の一つです。これらの研究業績が、これからの分析化学の発展に貢献するとして受賞に至りました。

○日本分析化学会 学会賞
受賞者：高椋 利幸 教授（理工学部化学部門）
題目：「有機分子の溶存構造に関するミクロからメゾスコピックレベルにおける分析法の開発」
参考：日本分析化学会 2023年度表彰者一覧Webページ
　　　https://www.jsac.jp/jsac/rule/commendation/list/

山本博之会長（左）から賞状を授与される高椋教授（右）

賞記とメダル

【用語解説】
ミクロスコピック：
10^-10 mオーダーの化学結合や原子配列を観測する視野のことである。日本語では微視的という。

メゾスコピック：
原子配列を観測する視野のミクロスコピック（微視的）と肉眼で観測するマクロスコピック（巨視的）の間に位置する視野をいう。この研究では、分子が集合して形成される10^-9～10^-7mオーダーの会合体を見る視野をいう。

NMR：
Nuclear Magnetic Resonance（核磁気共鳴）の略称である。磁場に置かれた水素(¹H)原子や炭素(¹³C)原子の原子核は、固有の周波数の電磁波を吸収する。この現象を共鳴と呼んでいる。分子を構成する原子核のまわりには電子が存在し、原子核が受ける磁場を部分的に遮へいする。これにより、原子核が吸収する電磁波の周波数が100万分の1のオーダーで変化する。これを測定することで、分子同士の相互作用による原子核まわりの電子密度の増減を知ることができる。つまり、分子間の相互作用の強さを知ることができる。

H/D置換小角中性子散乱法：
小角散乱法は、物質により1°以下の小さい角度で散乱されたX線や中性子の強度を測定する方法である。角度1°以上の散乱を測定する広角散乱では、10^-10mオーダーの化学結合や原子配列を観測するのに対し、小角散乱法では、分子が10^-9～10^-7mレベルで集合した分子会合体を見ることができる。このうち、中性子を照射する方法を小角中性子散乱法という。中性子は、水素原子の同位体(¹Hと²H = D)により散乱強度が異なる。¹H原子よりもD原子の方が中性子を強く散乱する。これを利用して、2種類の液体のうち一方に¹H原子を含むもの、他方にD原子を含むものを混合すると、それぞれの分子によって散乱される中性子の強度に高いコントラストをつけることができる。したがって、一方の液体の中で、他方が集合して形成された会合体を観測しやすくなる。この方法を「H/D置換」を付けて、H/D置換小角中性子散乱法という。

【本件に関する問い合わせ先】
　佐賀大学理工学部総務
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