急性心不全患者に対するエンレスト早期投与の有効性と安全性を日本人で初めて実証

【研究者】
 代 表 者:野出孝一(佐賀大学 医学部長)
 実施責任者:田中敦史(佐賀大学医学部循環器内科 特任教授)

【研究成果の概要】
 急性心不全の薬物療法には、特定の治療プロトコールや薬剤が十分確立しておらず、医師の判断や経験に基づく治療が広く行われていますが、急性心不全患者の予後の改善へ向けた薬物治療戦略の改善が求められてきました。
 本邦で2020年に心不全治療薬として承認されたサクビトリル・バルサルタン(商品名:エンレスト)は、慢性心不全患者を対象とした臨床試験のエビデンスは多いものの、急性心不全患者に対する臨床効果はこれまで十分明らかになっていませんでした。そのような中、2019年以降に米国を中心とした北米で実施された二つの臨床試験において、急性心不全患者に対するエンレストの有効性と安全性が報告されました。しかし、急性心不全患者に対する診療は各国の医療体制によって異なることから、本邦での急性心不全患者に対するエンレストの臨床応用には、本邦の実臨床下における臨床試験での検証が必要と私たちは考え、本研究を実施いたしました。
 本研究では、日本全国の計44施設と共同で、計400名の急性心不全で入院した患者に対して、血行動態の安定後早期にエンレストの投与を開始する患者群と、従来からの心不全治療薬であるACE阻害薬もしくはアンジオテンシン受容体阻害薬の投与を受ける患者群(対照群)とに無作為化し、それぞれの治療を8週間受けた後の心不全の指標である血中NT-proBNPの変化を比較しました。その結果、エンレストの投与を受けた患者群では治療開始から8週間後のNT-proBNPの低下が対照群と比べて19%有意に大きく、前述の北米データと同様の有効性が明らかとなり、低血圧などの副作用も少なく、安全性に問題は認められませんでした。
 以上より、本研究では日本人の急性心不全患者に対するエンレストの有効性・安全性が北米以外で初めて実証され、本邦の臨床現場においても急性心不全患者に対するエンレストの早期投与が有効であることが示唆されました。

 

【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
欧州心臓病学会(ESC) Late-Breaking Scienceセッション (ロンドン時間2024年8月31日 AM 8時15分) 
European Heart Journalに同時掲載
論文名:In-hospital initiation of angiotensin receptor–neprilysin inhibition in acute heart failure: the PREMIER trial

【今後の展開】
 急性心不全患者に対するエンレストの早期投与は、前述の北米の研究結果から、本邦の心不全診療ガイドラインにおいてすでに一定の推奨がなされていますが、本研究結果を受け、この治療法が我が国の臨床現場にさらに浸透していくと同時に、急性心不全患者に対する治療の質向上が期待されます。

【特記事項】
 本研究は、ノバルティスファーマ株式会社から研究資金を受け実施されました。

【教員活動DBのリンク先】
 https://researchmap.jp/koichinode

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学医学部循環器内科 田中敦史、野出孝一
 TEL:0952-34-2443
 Email: tanakaa2@cc.saga-u.ac.jp、node@cc.saga-u.ac.jp

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