佐賀平野のカササギ生息数が急激に減少: 土地利用の変化や生息密度と繁殖成功率の関係から原因を推定
【研究者】
代表者:徳田誠教授(佐賀大学農学部・鹿児島大学大学院連合農学研究科)
分担者:永渕拓歩氏(佐賀大学農学部)・佛坂安恵氏(神埼市)・池上真木彦博士(国立環境研究所)・土屋佳央氏(佐賀大学大学院農学研究科)
【研究成果の概要】
佐賀県南部などの生息地が国の天然記念物に指定されているカササギの生息数が、佐賀平野において2010年代に急激に減少したことを明らかにしました。
具体的には、2008年と2019年に同様の調査を実施した区画では、1km四方あたりの営巣つがい数が平均4.3ペアから1.6ペアへと約63%減少していました。
また、カササギの巣が確認されなかった調査区画(1km四方)の割合は、2008年には7.9%(76区画中6区画)であったのに対し、2019年には34.8%(69区画中24区画)と4倍以上に増加していました。
この生息数減少の背景には、以下の2つの要因があることが本研究で示されました。
- 土地利用の変化による生息密度の低下
佐賀平野におけるカササギの生息数は、1990年代から一貫して減少傾向にあることが報告されて
おり、以前の解析では、都市部での著しい減少が指摘されていました。今回の研究でも、農耕地
から建物用地への土地利用の変化がカササギの生息密度低下に影響していることが明らかになり
ました。加えて、建物用地率が低い農村部でも生息数の低下していることが判明しました。圃場
整備の進展などに伴う景観変化により、カササギの生息に必要な樹木や竹林などが消失したこと
が農村部での生息数の減少に影響している可能性があります。 - 低密度の地域における繁殖成功率の低下
カササギの生息密度が高い地域と低い地域とで繁殖成功率を比較した結果、低密度地域では、雛
の孵化や巣立ちの成功率が著しく低くなっていることが判明しました。卵や雛の詳細な死亡要因
は特定できていませんが、過去の研究から、主要な天敵はカラスであることが判明しており、カ
ササギの生息数減少やカラスの生息数増加の影響により、低密度の地域ではカササギの繁殖が失
敗しやすくなり、さらなる密度低下を招く「負のスパイラル」が生じている可能性があります。
本研究は、土地利用の変化が生態系にもたらす複雑な影響を定量的に示したものであり、天然記念物カササギの今後の保全施策の立案に重要な知見を提供するものです。
【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
掲載誌名:Ecology and Evolution(2025年9月21日出版)
発行:British Ecological Society and John Wiley & Sons Ltd.
論文表題:Population declines of the Oriental Magpie Pica serica (Corvidae) in the Saga Plain, Japan: Relationships with land use patterns, nesting sites, and breeding success
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.72193
【今後の展開】
今後は、カササギの営巣場所選択の詳細な解析や、繁殖成功率が低下した原因の特定を進めることで、生息数減少の背景をより深く理解し、効果的な保全策の立案につなげていくことが期待されます。
【researchmapのリンク先】
https://researchmap.jp/read0148811
【本件に関する問い合わせ先】
佐賀大学農学部教授 徳田 誠
E-mail:tokudam@cc.saga-u.ac.jp