核型46,XYを持つ全染色体父性片親性ヘテロダイソミー症例の発見

【研究者】
 代表者:原聡史、副島英伸
  分担者や協力者:佐藤知彦2、霜川修3、夫律子3、渡邉弥生、一丸武作志
  1: 佐賀大学 医学部 分子生命科学講座 分子遺伝学・エピジェネティクス分野
  2: 弘前大学医学部 小児科学講座
  3: リッツメディカル株式会社

【研究成果の概要】
 通常、ヒトは父親と母親から23本の染色体を1セットずつ受け継ぎ、計2セット(46本)の染色体を持っています。しかし、稀に2セットすべての染色体が父親由来となる「全染色体父性片親性ダイソミー(genome-wide paternal uniparental disomy; GWpUPD)」と呼ばれる状態が発生することがあり、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS)の発症原因の一つとなっています。これまで報告されていたGWpUPDの症例は、父親由来の1セット分の染色体が複製され、同一の染色体が2セットとなった「アイソダイソミー」とよばれるタイプで、その全てが女性の核型(46,XX)でした。

 今回、研究グループは、自然妊娠で出生しBWSの症状を呈する男児について遺伝子解析を行ったところ、GWpUPDであることがわかりました。さらに、詳細な解析を行った結果、血液中の細胞の多くが、同一の父親の2セット分の染色体を持つ「全染色体父性片親性ヘテロダイソミー(genome-wide paternal uniparental heterodisomy; GWpUPhD)」という極めて稀な状態であることが分かりました。また、この患者さんは通常の男性と同じ46,XYという核型でしたが、性染色体を詳しく解析したところ、父親に由来するX染色体(Xp)とY染色体、母親に由来するX染色体(Xm)の3種類が検出されました。このことから、患者さんの体の中には、父親と母親の染色体を持つ正常細胞(46,XmY)と、GWpUPhDを起こした細胞(46,XpY)とが混在した「キメラ」という状態であることが明らかになりました。この特殊な状態がどのようにして起こったのかについて、研究グループは「1つの卵子に2つの精子(X染色体を含むゲノムを持った精子とY染色体を含むゲノムを持った精子)が受精した後に、Y染色体を含むゲノムだけが倍加して一時的に4倍体となることで、正常な細胞とGWpUPhD細胞が生じた」という新たなモデルを提唱しました。

 今回の発見は、「1つの卵子に2つの精子が受精して、GWpUPhD細胞が生じる」という現象が自然妊娠の過程において生じうることを示しています。加えて、BWSの発症原因の一つであるGWpUPDが、核型46,XX(女性)だけでなく46,XY(男性)でも起こり得ることが証明されました。

 本成果は、弘前大学医学部小児科学講座 佐藤知彦助教、リッツメディカル株式会社 霜川修博士、夫律子博士との共同研究によるものです。

【用語説明】
 ・片親性ダイソミー(uniparental disomy; UPD):本来は父と母からそれぞれ1本ずつ受け継ぐべき染色体が、どちら
  かの親の染色体だけを2本持っている状態。特に、父親由来の染色体を2本持っているUPDを父性片親性ダイソミー
  (paternal uniparental disomy; pUPD)と呼ぶ。

 ・アイソダイソミーとヘテロダイソミー: UPDのうち、同じ親に由来する同一の染色体が2本存在する状態を「アイソダ
  イソミー」、同じ親がもつ2本の異なる染色体を1本ずつ持つ状態を「ヘテロダイソミー」と呼ぶ。

 ・全染色体父性片親性ダイソミー(genome-wide paternal uniparental disomy; GWpUPD):すべての染色体が父
  親由来の染色体2本で構成されている状態。通常、このような状態の胚は発生できないが、受精後に正常な細胞と
  GWpUPDを起こした細胞が混在した場合(キメラ)は出生可能である。その場合、児のほとんどがBWSを発症する。
  これまでに報告されているGWpUPD症例はすべてアイソダイソミーである。アイソダイソミーのGWpUPDが成立する
  場合、1つの精子が持っている23本の染色体(23,X)がすべて倍加した状態になっているため、出生してくる患児は原
  則として核型46,XX(女性)となる。

 ・ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS):過成長、臍ヘルニア、巨舌、新生児低血糖、胎児性腫瘍などを特徴とす
  る先天性疾患。BWS症例の約20%が11番染色体のpUPDによるものであり、その中の約8%でGWpUPDが見つかってい
  る。

【今後の展開】
 BWSの原因は複数存在しますが、それぞれ病態や腫瘍リスクが異なることが知られています。本研究で得られた知見か
ら、BWSの病態や発症メカニズムのさらなる理解や、より正確な診断や将来的な治療法の開発につながることが期待され
ます。

【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
  論文タイトル:Beckwith–Wiedemann spectrum exhibiting a 46,XY karyotype caused by genome-wide paternal
         uniparental heterodisomy: a case report
  掲載誌名:Human Genomics
  公 開 日:6月23日
  DOI:10.1186/s40246-026-01009-7

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学医学部 分子生命科学講座 分子遺伝学・エピジェネティクス分野
  准教授 原 聡史
   mail:  shara@cc.saga-u.ac.jp

 

 

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