「中学3年生ピロリ検診」10年間の成果 ~延べ約8万人を検診、1,470人の感染を発見した若年者胃がん予防モデル~

事業の概要

 佐賀大学では、佐賀県からの受託事業「未来へ向けた胃がん対策推進事業センター運営事業」を実施しています。2016年度から2025年度までの10年間、県内すべての中学3年生を対象に実施してきた「若年者ピロリ検診」では、延べ約8万人が検診を受け、1,470人のピロリ菌感染者を確認しました。このうち1,343人(91.4%)が除菌治療を受けました。

 本事業の大きな特徴は、学校での検査だけで終わらず、精密検査、除菌治療、治療効果判定までを一貫して実施している点で、佐賀県・佐賀大学・学校・地域医療機関が連携する仕組みを10年間継続してきました。

 ピロリ菌は胃がんの主要な原因の一つです。本事業は、若年期にピロリ菌感染を発見し、早期に除菌治療につなげることで、将来の胃がん予防を目指す取り組みです。

 このたび、佐賀大学として2016年度から2025年度までの10年間の実績を取りまとめました。

 

発表のポイント

• 2016年度から2025年度までの10年間、県内すべての中学3年生を対象に継続して実施
• 2025年度までに延べ約8万人が検診を受け、1,470人のピロリ菌感染者を確認
• 感染者1,470人のうち1,343人(91.4%)が除菌治療を受療
• 大学・行政・学校・地域医療が連携する若年者胃がん予防システムを10年間継続

 

活動の目的・背景

 胃がんは現在も日本人の主要ながんの一つであり、その多くにHelicobacter pylori(ピロリ菌)感染が関与しています。
ピロリ菌はヒトでは主として幼少期に感染し、持続感染によって長期間にわたり胃粘膜にダメージを与えます。感染から胃がん発症までには数十年を要するため、若年期に感染を診断し除菌することは、胃粘膜へのダメージを早期に抑え、将来の胃がん予防につながる可能性があります(参考資料1)。

 こうした考え方に基づき、佐賀大学からの発案で、佐賀県では2016年度から県内すべての中学3年生を対象としたピロリ検診を開始しました。学校での検査に加え、精密検査、除菌治療、治療効果判定までを一貫して実施し、佐賀大学が医学的支援と事業評価を担ってきました(参考資料2)。

 

10年間の事業実績(参考資料3, 4, 5)

• 2025年度までに延べ約8万人が検診を受けました。
• 検査同意率は78.5%から近年は93%以上となり、高い参加率を維持しています。
• 10年間で1,470人のピロリ菌感染者を確認しました。
• 感染者1,470人のうち1,343人(91.4%)が除菌治療を受けています。一次除菌成功率は84.1%、二次除菌成功率は96.1%でした。
• 除菌担当医による聞き取り調査では、1,343人中66人に副反応が報告されましたが、重篤な有害事象は認めませんでした。

 

10年間の検診から見えてきた若年者の感染状況(参考資料3)

 中学3年生におけるピロリ菌感染率は、2016年度の3.6%から2025年度には0.9%となりました。10年間で約4分の1の水準です。

 ただし、これは毎年度異なる中学3年生を対象とした検診結果の推移であり、本事業によって感染率が低下したことを示すものではありません。出生年代や生活環境の変化などを背景とする若年世代の感染状況の変化を、本事業を継続したことによって把握できたものです。

 

本事業が示したもの

 本事業の重要な成果は、若年者を対象とした検診を「見つけるだけ」で終わらせず、「検診 → 精密検査 → 除菌治療 → 治療効果判定」まで切れ目なくつなぐ地域システムを10年間維持したことです。

 大学、行政、学校、地域医療機関がそれぞれの役割を担い、感染が確認された生徒を治療へつなげる体制を構築してきました。

 

佐賀から全国へ―若年者ピロリ菌対策の広がり

 若年者を対象としたピロリ検診は全国の自治体にも広がっています。参考資料6では、中学生・高校生を対象とする検診実施自治体が2015年の18自治体から2023年には105自治体へ増加したことが示されています。佐賀県で10年間継続してきた経験は、若年者胃がん予防を地域システムとして運用する上での一つのモデルとなります。

 

学術的成果

 本事業から得られた成果は、Journal of Gastroenterologyをはじめとする国際学術誌に報告され、日本の「Helicobacter pylori感染診療ガイドライン2024年改訂版」にも反映されています。地域に根ざした公衆衛生事業が、国内外の研究や診療へ発展したことも本事業の大きな成果の一つです。

 

【学術論文】

• Guidelines for the management of Helicobacter pylori infection in Japan:2024 revised edition. Journal of Gastroenterology.61(7):841-862,2026.
• Efficacy and Safety of vonoprazan-based regimen for Helicobacter pylori eradication therapy in Japanese adolescents: A prospective multicenter study. Jornal of Gastroenterology.58(3):196-204,2023.
• A Helicobacter pylori screening and treatment program to eliminate gastric cancer among junior high school students in Saga Prefecture: a preliminary report. Journal of Gastroenterology.54(8):699-707,2019.

 

今後の展望

 佐賀大学は、今後も若年者に対するピロリ検診を継続的に実施できる体制を目指すとともに、これまでの10年間の取り組みを基盤として、
・長期追跡による胃がん予防効果の検証
・ 若年者ピロリ菌対策に関する新たなエビデンスの創出
・他自治体との連携による全国への普及
・ 次世代の胃がん予防戦略への貢献
を進めてまいります。「未来の胃がんを防ぐ」という理念のもと、佐賀県から全国へ向けて若年者胃がん予防のモデルを発信していきます。

 

参考資料

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学医学部附属病院 未来へ向けた胃がん対策推進事業センター
 住所:佐賀県佐賀市鍋島5−1−1 地域医療支援センター2F
 TEL:0952-34-2314

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