野出孝一学長が中心となり作成された政策提言が日本学術会議から発出「生活習慣病対策の再構築に関する提言― ライフコースを通じた包括的な対策に資する、多職種連携と統合データ基盤の確立 ―」

 日本学術会議会員・生活習慣病対策分科会委員長の野出孝一佐賀大学学長は9月18日、日本学術会議から上記の政策提言を発出しました。 提言の内容は以下の通りです。

提言1 ライフコース全体を貫く切れ目のない多職種連携支援体制の構築

縦割りによる支援の空白をデータ共有によって解消し、多省庁横断の支援体制へ政策転換を図ります。さらに、医療・地域・職域・学校の協働基盤を整備し、専門職養成教育を推進します。

提言2 統合データ基盤の構築と未来志向のヘルスプランへの転換

政府主導のもと、母子・学校・職域・地域の健診情報と、パッシブセンシングを含むPHRを連携した統合データ基盤を構築します。これにより、本人による主体的な共同意思決定(SDM)を支援するとともに、強固なELSIガバナンスを確立します。

提言3 生活習慣病の用語に関する学際的・社会的な議論の推進

医学のみならず社会学、哲学・倫理学、言語学などの多角的な視点から、用語がもたらす社会的影響(スティグマなど)を検証します。その上で、国民との双方向の対話を通じて、多様な価値観と尊厳を尊重する新たな社会的合意の形成を目指します。

 

活動の目的・背景

 社会構造の変化、医学・科学技術の進展、価値観の多様化により健康と疾病をめぐる状況が変化し、多疾患併存(マルチモビディティ)が常態化しています。デジタル環境の進展に加え、健康の社会的規定要因(SDH)の認識が高まり、我が国の健康づくり対策は大きな節目を迎えています。生活習慣病は単なる「予防対象」ではなく、適切な医療・治療を受けながら「生涯にわたり共生すべき課題」です。従来の発症予防に偏重した対策から、病と共生する個人を包括的に支援する「ライフコースを通じた切れ目ない支援体制」へ転換します。施策の推進にあたり、「生活習慣病」という定義や用語自体のあり方についての議論も必要です。

 

活動の詳細

 予防と共生を統合した健康観に基づき、人生を支える「持続可能な支援体制への転換」を促すため、3点の提言を行います。

提言1 ライフコース全体を貫く切れ目のない多職種連携による支援体制の構築

 現行制度の縦割り構造に起因する支援の空白をデータ共有によって解消し、ライフコースを通じた一気通貫の支援体制を構築するため政府は多省庁を横断した体制へと政策を転換する必要があります。
医療、地域、職域、学校の多様な現場において、保健医療、教育、福祉・介護、行政の専門人材が効果的に協働できるよう、厚生労働省を中心とした多職種連携の制度的基盤を整備すべきです。
あわせて、それを支える専門職教育を、文部科学省と連携して推進することが求められます。

提言2 統合データ基盤の構築と未来志向のヘルスプランへの転換

 ライフコースにわたる切れ目のない支援を実現するために、デジタル技術を活用し、健康情報を制度間、多職種間、さらには本人とも共有可能とする統合データ基盤を政府主導で構築すべきです。
その構築にあたって、個人および社会の視点に立ち、以下の環境を整備する必要があります。

・本人の参画を促すプラットフォームの構築
本人が自らの情報を主体的に把握し、生活習慣病の予防や共生に関する意思決定に参画できる仕組みの整備。

・プラットフォームを支える制度的枠組みの整備
母子・学校・職域・地域保健の相互連携、およびPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)利活用のための環境整備。

共同意思決定を促進するためには、従来の健診・医療データに加え、ウェアラブル機器やIoTによるパッシブセンシングデータを統合したPHR(パーソナルヘルスレコード)の基盤整備が不可欠です。また、その利活用に際しては、本人同意を前提とした安全なデータ連携の標準化、プライバシー保護、およびELSI(倫理的・法的・社会的課題)に関する国民的合意形成に努め、実効的なガバナンス体制を確立しなければなりません。

提言3 生活習慣病の用語に関する学際的・社会的な議論の推進

 「生活習慣病」という用語について、政府および関係学会は、これまでの疾病対策や健康づくり施策への貢献を踏まえつつ、その社会的影響に関する調査・研究を推進すべきです。その議論は、医学や公衆衛生学的観点にとどまらず、社会学、倫理学、哲学、言語学といった学際的視点から、多角的かつ開かれた形で進める必要があります。さらに、政府や関係学会には、国民との双方向の対話を通じ、個人の多様な価値観の尊重や倫理的配慮に基づいた新たな社会的合意を形成することが求められます。

 

期待される成果/今後の展望

本提言は、生活習慣病を個人の問題と捉える従来の枠組みから脱却し、ライフコース・社会環境・共生を包括した新たな健康政策への転換を図るものです。これにより、生涯を通じて誰もが尊厳を維持し、健康と共に生きることができる社会の実現を目指します。

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学総務部総務課秘書室
 TEL:0952-28-8100
 FAX:0952-28-8882
 E-mail:sohisyo@mail.admin.saga-u.ac.jp

 

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