平成20年度佐賀大学学位記授与式式辞
おめでとうございます。皆さんは、それぞれ目的とした学位の取得に精励し努力され本日の学位記授与式を迎えました。佐賀大学の学位記は、皆さんが、「国際的視野を有し、豊かな教養と深い専門知識を生かして社会で自立できる人間」であることを証明するものです。高度な知識と技術の修得に加えて人間として大きく成長されたことに敬意を表します。この式場は皆さんの喜びと充足感で満ち溢れています。本日は、皆さんの独立記念日であり人生において忘れることない一日となるでしょう。
また、ご参列いただいています保護者の方々、学位取得に向けて常に支援を続けてこられた支援者の方々、今日の日を無事に迎えられ長い間のご苦労が報われたものと推察いたします。おめでとうございます。
私ども佐賀大学の役職員は、学位を取得した学生の皆さんを誇りに思うと共に保護者、支援者の皆様の期待に応えることが出来たものと自負しております。まさに、教育に携わるもののみに与えられる教育冥利を実感しているところです。
昨年の大きな話題の一つは、世界首脳会議G8サミットが我が国の北海道洞爺湖で開催されたことでした。そこで取り上げられたテ-マは地球の環境問題、とくに近年の地球温暖化に対する対策でした。私は、昨年度の学位記授与式の式辞の中で、「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書が、二酸化炭素ガスの排出による気温の急激な上昇によって、このまま続けば人類の生存基盤に多大な影響を与えると警告している」ことを紹介しました。また、「ここ数年、佐賀大学が取り組んでいる市民や学生が参画する環境フォ-ラムや有明海の環境の回復のために集中的に研究している有明海総合研究プロジェクトなどを通じて、皆さんは、本学で学んだ知識と技術を日常生活においても職場においても率先して環境の改善のために活用してください」と述べました。今日卒業される皆さんにも同様のことをお願いします。
本年度の深刻な話題の一つは、アメリカのサブプライム・ロ-ンに端を発した経済的不況が昨年の暮れから世界に広がっていることです。とくに輸出に頼る日本経済は大きな打撃を受けています。今日の情報化社会は、20世紀の終わりから21世紀にわたる20年の間に急激に発達した情報技術に裏付けられて、高度に情報化された社会としてそのピ-クを迎えようとしています。情報化社会は、「知」そのものに価値を与える「知的財産」を生み出し、新たな文化と文明の創造に貢献しています。一方、情報化社会は、情報の内容の善悪に関係なく「情報」そのものにも価値を見出しました。私は、この情報それ自体の価値の取引が金融商品として経済活動に大きな影響を与え、現在の世界的な経済の同時不況の引き金になったものと考えています。情報化社会は必ずしも豊かな社会を約束するものではないことを暗示しています。
われわれ人類が、これまで築いてきた文化と文明は、温暖化をはじめ、地球環境の破壊に繋がる可能性に加え、様々な社会問題を誘発して安全で安心な社会環境を破壊する可能性を孕んでいます。実際、温暖化対策に対して国際政治は無秩序な状況を露呈し、また未曾有の経済不況によって社会的不安が顕在化しています。雇用・年金問題、医療不信、犯罪の増加など社会的不安の広がりは日本においても例外ではありません。皆さんは、日常生活を含めて自ら行う社会的活動が自然に及ぼす影響を憂慮し、情報化社会のもたらす負の影響に繋がらないように配慮しなければなりません。地球の将来と人間社会の将来は皆さんに委ねられています。
高等教育の著しい普及を背景に21世紀は知的基盤社会の到来が予想されます。知的基盤社会とは、あらゆる活動が「知的財産」を資源とする「知的活動」によって新たな「知的財産」を創出する社会です。豊富な知識と高い技術を持った一部の人々をリ-ダ-とする今日までの社会は大きく変貌すると思われます。大学で皆さんの修得した専門的な知識と技術は限られたものです。どこまで学んでも充分とは言えません。問題を抱えたとき、解決に必要な専門知識を選択する判断力と、その知識を自ら修得できる能力を養うことです。そのために、生涯教育が知的基盤社会の要になると考えます。単なる趣味ではなくて、自身のキャリアをアップするとともに、自らの人間としての成長を継続することです。プロ野球球団楽天の野村監督は、現役晩年のとき「生涯一捕手」を座右の銘にしたと聞いています。皆さんも「生涯一学生」を心がけてください。
佐賀大学の理念は3年前に制定された佐賀大学憲章に明らかにされています。本学はこの大学憲章に則って教育と研究を進めてきました。佐賀大学は、皆さんが国際社会の中で取り組むあらゆる分野で本学の理念を具現化し、知的基盤社会を創り上げるためにリーダーシップを発揮していただけるものと確信しています。
平成21年3月24日
佐賀大学長 長谷川 照
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