平成29年度佐賀大学学位記授与式式辞
先ほど学士、修士、博士の学位を授与された1646名の卒業生、修了生の皆さん、佐賀大学を代表して心から祝福いたします。
皆さんは入学以来真摯に勉学に励み、本日、佐賀大学の学位を授与されました。中でも留学生の皆さんは、母国を遠く離れ、言葉や習慣など異なる環境の中でよく研鑽し、見事に学位を取得されたことに対し、深く敬意を表します。
またこの会場には、昨年7月に福岡県朝倉市周辺で発生した九州北部豪雨による被害を受けながら、懸命に勉学を継続し、学位取得に至った学生もおられます。ご家族の皆様にも併せまして、心からお見舞いを申し上げるとともに、困難な状況にあっても強い信念の下で本日を迎えられたことに、私たち教職員が心から敬意を表し、祝福していることをお伝えしたいと思います。
そしてこの豪雨災害に限らず、一昨年の熊本地震や各地の災害が発生した折、多数の学生がボランティアでの復興支援活動に参加してくれました。キャンパス内での募金活動や、支援物資の収集・搬送にも多くの学生が携わったと聞いています。
慄然とする報道が続く中、学生たちのこうした自発的な活動が私たちの心を温めてくれたことを憶えています。本学に人間味溢れる学生が多数在籍していることを学長として誇りに思うとともに、本日卒業、修了される皆さんにはこうした思いやりの心を忘れず、これからの人生を歩んでほしいと願っています。
さて、皆さんはこれから社会の一員となるわけですが、現代社会はそれまでの常識や定説がごく短期間のうちに一変するような時代、いわゆる「不確実性の時代」が到来したと言われています。もちろんこれまでも技術は日々進歩し、その都度社会は変化を続けてきましたが、過去に第1次から第3次の産業革命が起こったように、ICT、IoT技術の進展による第4次産業革命が今まさに始まっていることが、社会における変革のスピードを加速させています。そして第1次産業革命が18世紀から19世紀のイギリスにおいて比較的ゆるやかに実現したことに対し、第4次産業革命は機械化、電子化された現代の環境を基盤として、私たちの実生活に瞬く間に浸透すると予想されています。さらにIoT、いわゆるInternet of ThingsがIoE、Internet of Everything という概念に置き換わろうとしているように、その範囲は私たちの生活全てを対象とすることでしょう。
これから皆さんは社会の急激な変化を的確に捉え、絶えず柔軟に対応していかなければなりません。社会の変化は更なる変化を誘引し、その構造すら変えてしまうからです。
本日の学位記授与式は1つのゴールであるとともに新たなスタートであり、これからの歩みが皆さん一人一人の物語を紡ぐ主文となることでしょう。1940年代にイギリスの首相を務め、後にノーベル文学賞を受賞したウィンストン・チャーチルは、第二次世界大戦におけるエジプトでの戦闘に勝利したのち、「これは終わりではない。終わりの始まりですらない。しかしあるいは、始まりの終わりではあるかもしれない」と語り、国民にさらなる覚悟を求めたといいます。
今日という日を祝福しながらも、明日から新たな研鑽の日々が始まることを心に留め置いてほしいと思います。
当然ながら皆さんが歩む道のりは平坦なものではありません。
これから我が国は1千兆円もの負債を償還し、同時に大規模自然災害からの復興、更には少子高齢化やグローバル社会への対応といった解決困難な課題に取り組まなければなりません。世界的にも諸外国との良好な外交関係の構築や深刻な食糧問題、そして終わりの見えないテロリズムへの恐怖など、皆さんの将来を取り巻く環境は決して楽観できるものとは言えないでしょう。
しかし恐れることはありません。チャーチルは「未来のことはわからない。しかし我々には過去が希望を与えてくれるはずだ」という言葉も残しています。今から150年前、今以上に混迷を極めた幕末期、この佐賀の地から多くの偉人が生まれました。今月17日から開催されている「肥前さが幕末維新博覧会」でも顕彰されているとおり、明治日本の近代化を牽引した先人たちの偉功は、現代の私たちにとっても貴重な指標となるものです。そして皆さんは、そうした先人を育んだ佐賀の地で、地域に根差した佐賀大学で、幅広い教養と専門能力を養い、社会に雄飛する準備を整えてこられました。その姿を私たちはしっかりと見届けています。
先人に次代を託された一人であることに誇りを持ち、大学生活で培った個性を新生活で存分に発揮し、自らの未来を創り出されることを期待しています。
結びに、これまで支えてくれたご家族への感謝、そして本学で出会った友人や恩師の存在を忘れず、何よりも学生生活を通して成長した自分自身を信じて、想い描いた目標を達成すべく研鑽を続けることを祈念し、式辞といたします。
本日は、誠におめでとうございます。
平成30年3月23日
国立大学法人佐賀大学長 宮﨑 耕治