人工関節術後感染症の撲滅に向け、銀HAコーティング人工関節を開発しました

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人工関節術後感染症の撲滅に向けて~銀HAコーティング人工関節の開発~

 

【要旨】

 (1)抗菌性と安全性に優れた銀コーティングの人工関節の開発

 (2)臨床治験でも高い安全性を実証

 (3)平成28年4月より抗菌性の高い標準型人工股関節を世界に先駆け販売

 

【開発の背景】

  この数十年で人工関節は大きく進歩・発展してきました。今や日本だけでも1年間に13万例以上行われる、日常的な手術に

 なりました。治療効果の高い人工関節置換術ですが、一旦異物である人工関節(インプラント)に細菌が付着すると、洗浄し、

 抗生物質を投与しても、難治性になり、抜去せざるを得なくなることがあります。患者さんにとっても、外科医にとってもこれ

 ほど残念な結果はありません。また医療経済的にも大きな損失となります。そこで人工関節術後感染症の撲滅に向けて、佐賀大

 学では2005年以来人工関節自体に抗菌性能を付与することを目標に研究を継続してきました。

 

【研究の内容】

  本研究グループは、今回、生体外での殺菌実験、骨伝導実験、細胞毒性実験、および人工関節感染モデルのラットを用いた生

 体内での細菌感染実験、生物学的安全性試験により、高い抗菌性と高い骨親和性の両方の特性を持ち、生物学的に安全な抗菌性

 人工股関節を世界で初めて開発しました。

 

  本研究グループは無機系抗菌剤である銀に着目しました。銀は、多種類の細菌に対して高い殺菌作用を発揮しますが、生体毒

 性(副反応)は低く、なおかつ銀によって殺されない菌(耐性菌)が発生しにくい特徴があります。細菌を死滅させ、かつインプ

 ラントと接する骨の細胞には障害を与えないような銀量がどれくらいなのか、どういう形でインプラントに銀をコーティングさ

 せるのかなどを研究し、最終的には優れた骨伝導能を有するハイドロキシアパタイト(HA)に酸化銀を含有させ、2700℃

 の高熱でインプラント表面に吹きつける新技術で目的とする加工が達成されました。銀量は微量で効果を発揮し、かつ毒性を示

 さない量としました。これは人工関節表面においてHAの骨伝導能を持ちながら、かつ抗菌性能を併せ持つコーティングなので

 す(図1)。

 

  この銀HA溶射被膜は人工関節感染の最大の原因菌である多剤耐性(多くの種類の抗菌薬が無効)のメチシリン耐性黄色ブド

 ウ球菌(MRSA)に対して強い殺菌作用を発揮し、またバイオフィルム(図2)の形成を阻害します。また良好な骨伝導性

 (骨親和性)を発揮し、物理的にも良好な骨固定性を示しました。さらに、この被膜は細胞毒性を認めず、ラットを使用した個

 体,臓器レベルでの安全性評価でも銀の副反応を観察しませんでした。

 

  本研究グループはこれらの基礎的研究成果に基づいて医薬品医療機器総合機構(PMDA)の承認のもと、銀含有HAをコー

 トした人工股関節を使用し、同意が得られた20例の臨床治験を行いました。全症例1年6ヶ月以上を経過していますが、感染

 症例はなく、またこれまでのところ銀によると思われる重篤な合併症は認められず、血中銀濃度も術後2週間で最高値を示すも

 のの、1年間に渡り、正常範囲内でした。また全例とも通常の股関節全置換術と同様の臨床経過で、レントゲン検査でも緩みは

 なく、抗菌性人工股関節の固定性には問題がありませんでした。

 

  以上のようにこの銀HA溶射被膜を有する人工股関節は、臨床的に高い安全性を示すことができました。このたび製造承認を

 得て製品化に成功し、今年4月に遂に世界に先駆け、日本での販売が決定しました。標準型の人工股関節に抗菌性能を付与した

 製品は世界初であり、佐賀大学と京セラメディカル株式会社との産学連携の成果です。

 

人工関節 図1  人工関節 図2

  図1 銀HAコーティング層から銀が溶出するイメージ   図2 感染症の治療を困難するバイオフィルムの形成プロセス 

                                 銀HA溶射被膜はこのバイオフィルム形成を阻害する。

 

【今後の展望】

  今後はこのインプラントが一般に使われるようになって、感染症がどれくらい減ったのかどうかを検証しなければなりません。

 何万人ものデータの集積が必要です。将来は人工関節以外の脊椎インプラントや骨接合材、人工歯根などに抗菌技術が応用され

 ていくでしょう。

 

         人工関節 写真1               人工関節 写真2

       写真1 人工関節臼蓋コンポーネント             写真2 人工関節大腿骨コンポーネント

 

 

 ●4月から上記の抗菌性能を有する人工関節が使用可能になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

【本件に関するお問い合わせ先】

佐賀大学医学部附属病院

副院長兼整形外科教授 馬渡正明 

電話番号 0952-34-2343  E-mail mawatam@cc.saga-u.ac.jp

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