佐賀大学で開発した新薬のより効果的な使用法 ~DNA脱メチル化薬OR-2100を用いた併用がん治療法~
【研究者】
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科 教授 木村晋也、客員研究員 蒲池和晴
佐賀大学医学部創薬科学共同研究講座 特任教授 渡邉達郎
【研究成果の概要】
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科の木村晋也教授らのグループは、がん治療薬として開発中の化合物OR-2100が、成人T細胞白血病 (ATL) や急性骨髄性白血病 (AML) の治療薬と安全に併用することが可能で、治療効果がより強くなることを動物実験で明らかにしました。本内容は、米国血液学会誌「Blood Advances」および米国癌学会誌「Cancer Research Communications」にオンラインで、それぞれ2022年12月14日および2023年2月9日に発表されました。
【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
「Blood Advances」「Cancer Research Communications」
【開発の背景】
がん細胞の遺伝子(DNA)には、メチル基が異常に蓄積しており、細胞の生存や増殖、機能に影響を与えていることが知られています。そのため、DNAに付いたメチル基を取り除く薬(DNA脱メチル化薬、注射薬)が、一部の血液がんの治療に用いられています。本研究グループでは、大原薬品工業株式会社(大原誠司社長)の支援を受け、国立がん研究センター研究所(牛島俊和分野長:現 星薬科大学 学長)と三者の共同で、飲み薬として投与が可能で、副作用の少ないDNA脱メチル化薬の創出を目指しOR-2100の研究開発を行っています。現在、骨髄異形成症候群 (MDS) で第I相臨床試験を実施中です。
最近では、DNA脱メチル化薬は単剤による使用に限らず、他のがん治療薬と併用して使用することで、治療効果をの高めることが様々研究で示されています。実際に、高齢AML患者さんの治療は、DNA脱メチル化薬とベネトクラクス(BCL-2阻害薬)の併用により、大きく改善しています。
【研究の内容】
ATL は、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)に感染することで発症する白血病です。ATLは現在の治療法では予後が1年程度と治療の難しい病気であり、有効な治療法が望まれています。ATLではEZH1/2を過剰に発現することが知られており、その阻害薬が2022年に新しく承認されました。一方、われわれはATLではDNAの異常なメチル化の蓄積が起こることを発見しております。そこで、EZH1/2阻害薬とDNA脱メチル化薬の併用が有効な治療となるかを検証致しました。その結果、ATLに対してこれら2剤による治療は相乗効果を発揮することがわかりました。さらに、動物試験では、2剤の使用は単剤の副作用を高めることなくより効果的な治療効果をもたらすことを見出しました。また、併用効果が表れる仕組みについて、ATLで発現が低下しているがん抑制遺伝子DUSP5の発現を回復させることを発見しました。
AMLは、強力な抗がん剤を組み合わせて治療を行いますが、入院は長期間に及び、複数の合併症を持つ高齢患者さんには、体力や副作用の面で実施が難しい治療でした。しかし、2021年よりDNA脱メチル化薬アザシチジン(注射剤)とベネトクラクス(経口薬)の併用治療が行われ、治療成績が大きく改善しました。この治療は、外来通院で比較的安全に継続できますが、アザシチジンは注射剤のため頻回の通院を要します。そこで、開発中のDNA脱メチル化薬OR-2100(経口薬)とベネトクラクスの併用治療の有効性を動物実験で検証し、AMLに対し良好な治療効果を確認しました。
【今後の展開】
現在、進行中の MDSに対するOR-2100の第I相臨床試験の結果を評価した後に、今回の研究成果を含めて、単剤だけでなく併用も視野に入れた臨床試験を開始できるように準備を進めていきます。
【教員活動DBのリンク先】
木村 晋也
https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.69b4741e14a547d0.html
【本件に関する問い合わせ先】
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科
教授 木村晋也
TEL: 0952-34-2366、 FAX: 0952-34-2017
E-mail: shkimu@cc.saga-u.ac.jp