バイオ3Dプリンタで横隔膜欠損の修復・再生に成功しました

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バイオ3Dプリンタで横隔膜欠損の修復・再生に成功

 

●ポイント

 

 ・バイオ3Dプリンタで作製した細胞パッチで横隔膜の部分欠損が修復し組織としての再生を確認した。

 ・難病指定されている先天性横隔膜ヘルニアに対する新しい治療になると期待される。

 ・佐賀大学で臨床応用の準備がすすんでいる血管構造体と製造工程が共通化できるため早期の臨床応用が期待される。

 

概要

 九州大学大学院医学研究院小児外科学分野の田口教授と佐賀大学医学部臓器再生医工学の中山教授らの研究グループは、細胞だけを材料にバイオ3Dプリンタで立体的にプリントした細胞パッチを幼少のラットの横隔膜欠損モデルに移植し、体内で正常な組織に近い横隔膜が誘導・再生させることに成功し、移植されたラットの長期生存と成長を確認しました。

 皮膚繊維芽細胞と血管内皮細胞を混ぜて作られた細胞パッチは、ラットの体内で正常の横隔膜にみられる筋細胞と末梢神経、毛細血管の進入を確認し、正常な横隔膜に近い組織に再生されていることが認められました。本技術は難病指定されている先天性横隔膜ヘルニアに対する新しい治療になると期待される。この研究成果は2018年3月16日に公開された「Biomaterials」誌に公開され、また3月21日から横浜で開催される「第17回日本再生医療学会総会」で発表される。

 

●研究の背景

 先天性横隔膜へルニアは、発生異常による先天的な横隔膜の欠損により、腹腔内臓器が胸腔内へ脱出する疾患です。胸腔に脱出した臓器による肺の圧迫によって肺の成長が妨げられ肺低形成を生じます。世界での発生頻度は、2,000〜5,000 出生に対して 1 例といわれ国内の最新の調査では、年間発症数は約 200 例と報告されています。特に重症例は欠損孔が大きく、生直後からの著明な呼吸不全・循環不全により、蘇生処置を要することがあり、長期にわたり在宅酸素療法や人工呼吸器を必要とすることがあり、国の難病指定を受けています。一般的には欠損孔が大きい症例に対して、テフロンやナイロン製のメッシュなど人工布を用いてパッチ閉鎖を行うことがありますが、人工布は筋組織である横隔膜と異なり収縮力がないことや、体の成長に応じて大きくならないため、術後再発、胸郭変形、横隔膜の運動不良、胃食道逆流などのリスクが問題とされています。

 

●研究結果

 今回、当研究グループはヒトの皮膚繊維芽細胞と血管内皮細胞を混合した細胞の塊を多数用意し、バイオ3Dプリンタで細胞の塊を積み上げてチューブ状に3Dプリントしました。数週間チューブ状の細胞構造体の内部に培養液を循環させて細胞構造体を“熟成”させ、移植時に縦にチューブを切り開いた細胞パッチの状態で横隔膜欠損部に縫合しました。移植されたラットは術後710日間の生存が確認されました。CTおよび肉眼的解析では移植された構造体は周囲の正常横隔膜との連結を維持していました。組織学的には移植されていた欠損部には正常な横隔膜と同様の骨格筋細胞と毛細血管および末梢神経の再生が確認され、横隔膜が再生されたと考えられました。この結果は、横隔膜を再生させるために、本来横隔膜に存在する骨格筋細胞や神経細胞などを用いることなく、採取が容易な皮膚の細胞からでも横隔膜の再生を誘導できる可能性が示唆されます。さらに、現在AMEDから佐賀大学が支援を受け臨床応用の準備をすすめている細胞製人工血管再生プロジェクトと製造方法が類似しているため早期の臨床応用が期待できます。

 

●まとめ

 本研究成果は従来人工布でしか閉鎖ができなかった重症先天性横隔膜ヘルニアの赤ちゃんに対してより効果的な治療を提供できると期待されます。

 

●今後の展開

 今後の臨床応用のためには、今回の成果が中大動物でも再現できるか検討する必要があることと、および原料となる細胞を皮膚以外の細胞、例えば臍帯由来や歯髄幹細胞など他の細胞との比較をすすめ、より安全で効果のある医療を確立できることを期待しています。

 

●特記事項

 本研究は、JSPS科研費JP4517125、および株式会社サイフューズの支援によって行われました。

 

●論文

 英文タイトル:Regeneration of diaphragm with bio-3D cellular patch

 タイトル和訳:バイオ3Dプリンタで作製した細胞パッチによる横隔膜の再生

 張秀英、柳佑典、盛 子敬 、永田公二、中山功一、田口智章

 掲載誌: Biomaterials、

 

 

 

【本発表資料に関するお問い合わせ先】

  九州大学大学院医学研究院 小児外科学分野

  教授 田口 智章(たぐち ともあき)

  TEL:092-642-5573 FAX:092-642-5580

 

【バイオ3Dプリンタに関するお問い合わせ先】

  佐賀大学医学部 再生医学臓器再生医工学講座 

  教授 中山功一(なかやま こういち)

  TEL : 0952-28-8480 FAX : 0952-28-8708

 

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