成人T細胞白血病の新薬開発 ~遺伝子にたまった「さび」を取り除く新薬の開発~

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 成人T細胞白血病 (ATL) において、病気の進行とともに遺伝子に『DNAメチル化』という「さび(錆)」が蓄積することを創薬科学講座の渡邉達郎特任准教授らのグループが発見。「さび」(メチル化異常)を取り除く新しい化合物OR-2100がATLに 効果を示すことも動物実験で確認。新しい抗がん剤としての利用に期待。本内容は、血液学では最高峰の米国血液学会誌「Blood」にオンラインで5月11日に発表された。

 

 

【開発の背景】

 成人T細胞白血病 (ATL) はHTLV-1ウイルスが感染することで起きる血液のがんの難病の一つです。日本はHTLV-1感染者が多い国の一つであり、80~110万人の感染者がおり、およそ半数は九州・沖縄地方に集中しています。多くは生後、母乳を介して感染するとされています。 

 HTLV-1感染者の3~5% がATLを発症し、症状からくすぶり型、慢性型、急性型、リンパ腫型に分類されます。急性型やリンパ腫型は悪性度が高く、急いで治療する必要があります。一方、くすぶり型や一部の慢性型は比較的ゆるやかな経過をたどる低悪性度 ATLとされ、診断後すぐには治療しません。しかし、およそ半数の低悪性度ATL患者が加齢とともに急性型やリンパ腫型に進展し、その長期的な予後はよくありません。そのため、効果的な発症予防法、治療法の開発が望まれますが、未だ満足できる薬はありません。

 そこで、佐賀大学医学部検査医学講座(末岡榮三朗教授)では2014年から国立がん研究センター研究所(牛島俊和分野長)と共同で、ATLの発症・進展機構の解明に向けた研究を開始しました。得られた知見を基に、2017年からは佐賀大学内に大原薬品工業株式会社(大原誠司社長)の支援を受け創薬科学講座(木村晋也教授)が設置され、三者の共同でATLの新しい治療法、予防法、診断法を開発することを目的に研究がなされてきました。

 

【研究の内容】

 遺伝子(DNA)に『メチル化』という「さび」が蓄積すると、細胞の生存や増殖、機能に影響を与えることが知られています。DNAメチル化状態はがん、生活習慣病、精神疾患などさまざまな病気に関与すると注目されています。今回、HTLV-1感染者、ATL患者の血液からHTLV-1に感染している細胞、感染していない細胞を分離し、それぞれのDNAに付着した「さび」(メチル化)の程度を解析することで、HTLV-1の感染、ATLの発症・病気の進行に伴い、一部の領域においてDNAのメチル化が特徴的に蓄積することを発見しました(図1)。

 DNAの「さび」であるメチル化を取り除く薬として、現在、アザシチジンやデシタビンが一部の血液がん患者の治療に用いられております。しかしながら、これら既存の薬は体の中では不安定であるため、連日の注射が必須であり、患者や医療従事者に負担となります。そこで、本研究グループでは飲み薬として投与が可能で、優れた抗ATL効果をもつ化合物OR-2100の開発を行いました。マウスや細胞を用いた研究では、既存の薬と比べて、抗がん作用を損なうことなく、① 経口吸収性(飲み薬としての性質)の向上、② 副作用の低減、を確認し、安全な長期的投与の可能性を明らかにしました(図2)。

 

【今後の展開】

 ATLに対する臨床試験を2年以内に行うべく準備をしています。また、DNAメチル化を指標にした新しい検査技術の開発も同時に進めています。これらの研究を促進するため、新たな共同研究体制として、佐賀大学内に大原薬品工業株式会社との共同研究講座が2020年4月に設置されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<本件に関するお問い合わせ先>

 佐賀大学医学部 創薬科学共同研究講座

 教授 木村晋也

 電話:0952-34-2353

 E-mail:shkimu@cc.saga-u.ac.jp

 

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