水稲害虫ウンカで共生細菌が引き起こす「オス殺し」に対する抵抗性を発見、カメムシ目昆虫では世界初

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【研究者】

 代表者:吉田一貴(鹿児島大学大学院連合農学研究科博士課程2年[佐賀大学配属]、日本学術振興会特別研究員)

 分担者や協力者:真田幸代 博士(農研機構 九州沖縄農業研究センター)、徳田誠 准教授(佐賀大学農学部、鹿児島大学大学院連合農学研究科)、黃守宏 博士(台湾嘉義農業試験分所)

 

【研究成果の概要】

 水稲などの害虫であるヒメトビウンカ(カメムシ目:ウンカ科)の飼育系統から、共生細菌が引き起こす「オス殺し」に対する抵抗性遺伝子の存在を確認し、その遺伝様式を明らかにした。本成果は英国王立協会発行の英文誌にオンライン掲載された。共生細菌が引き起こす「オス殺し」は未だ謎が多く、またそれを無効化する抵抗性遺伝子の存在や遺伝様式については、これまでに世界で3例しか報告されていなかった。今回の報告は、カメムシ目昆虫におけるオス殺し抵抗性としては世界初、また、「晩期型オス殺し」(卵や若齢幼虫でなく、老齢幼虫期にオスが死亡する)に対する抵抗性としても世界初の報告である。

 

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 多くの昆虫の体内には、細菌やウイルスなど、多様な微生物が存在することが近年明らかになってきている。これらの共生微生物の中には、「オスのメス化」や「オス殺し」など、宿主(昆虫)の生殖を微生物にとって都合がいいように改変する(=生殖操作)という、驚くべき能力を持つものがいる。共生微生物は通常、メスが産む卵を通じて次の世代へと受け継がれるため、生殖操作は微生物の伝播効率を高めるようにはたらく。

 植物病原ウイルスの媒介者として知られる水稲害虫のヒメトビウンカLaodelphax striatellusでは、一部の集団に「オス殺し」を引き起こすスピロプラズマSpiroplasmaという共生細菌が感染している。スピロプラズマに感染しているヒメトビウンカでは、老齢幼虫期にオスが死亡してしまい、集団中の性比が大きくメスに偏る。オスが死ぬことにより、感染メスが餌資源をより多く得られるなどの利点があると考えられている。

 しかしながら、オス殺しは、宿主昆虫にとってはオスの子供が殺されてしまうため、大きな不利益となる。したがって、自然界では、共生細菌によるオス殺しを無効化する「抵抗性」が速やかに出現すると予測されている。ただし、そのような抵抗性が出現したとしても、オス殺しが無効化された時点で性比は正常に戻り、見かけ上は何の異常もみられなくなるため、共生微生物による生殖操作と、それに対する昆虫の抵抗性の進化の過程を実際に観測するのは非常に難しい。実際に、昆虫の間で共生細菌に対するオス殺し抵抗性が出現し、広がった事例は、これまでに世界でもわずか2種の昆虫からしか報告されていない。

 今回我々は、ヒメトビウンカの飼育系統の中から、「オス殺し」を引き起こすスピロプラズマに感染しているにも関わらず性比が1:1となっているものを発見した。そして、この系統はオス殺しに対する抵抗性遺伝子を持っていることを交配実験により証明した。また、この「オス殺し抵抗性」は、メンデルの遺伝の法則において顕性(優性)を示す遺伝子であることが明らかになった。

昆虫の共生細菌が引き起こす「オス殺し」は未だ謎が多く、それを無効化する抵抗性遺伝子の存在や遺伝様式については、これまでに世界で3例しか報告されていなかった。今回の報告は、カメムシ目昆虫におけるオス殺し抵抗性の発見としては世界初となる。また、「オス殺し」には早期型(卵や初齢幼虫期にオスが死亡)と晩期型(老齢幼虫期にオスが死亡)が知られているが、過去の報告はいずれも「早期型オス殺し」に対する抵抗性であり、「晩期型オス殺し」に対する抵抗性遺伝子の発見としても世界初となる。

 

【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】

掲載誌名:Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences

発行:英国王立協会(Royal Society)

論文表題:Silence of the killers: discovery of male-killing suppression in a rearing strain of the small brown planthopper, Laodelphax striatellus

 

【今後の展開】

 ウンカにおけるオス殺しのメカニズムや、抵抗性遺伝子によってオス殺しが無効化されるメカニズムは未解明である。今後、今回見つかったオス殺し抵抗性に関わるウンカの遺伝子を特定し、「なぜオスだけが死ぬのか」というメカニズムが解明できれば、将来的に、共生細菌を利用した新規防除法や、オス殺し機構を利用した農薬の開発など、新たな害虫防除への応用が期待できる。

 

【その他PRしたい特記事項】

 本成果の一部はJSPS科研費(16K08104,20J21361)の助成を受けたものである。

 

 

システム生態学研究室(徳田)HP:

 http://systeco.ag.saga-u.ac.jp/Home.html/Home.html

 

【教員活動DBのリンク先】

 徳田 誠 准教授 

 https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.1e89bf9ca7e18a8f.html

 

 

 

【本件に関するお問い合わせ先】

  吉田一貴(k.yoshida.saga(at)gmail.com)
  徳田 誠(tokudam(at)cc.saga-u.ac.jp、0952-28-8792) 

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