根粒共生によって薬用植物カンゾウのグリチルリチン酸が増加することを発見! — 薬用植物カンゾウの生産に期待 —

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【本研究の概要】

 佐賀大学(学長:兒玉浩明)大学院農学研究科修士2年 草場郁子氏と農学部 鈴木章弘教授らは、マメ科の薬用植物であるウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)の根やストロン1に含まれる薬効成分グリチルリチン酸2が、根粒菌との共生によって増加することを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、東北大学(総長:大野英男)佐藤修正教授,北海道医療大学(学長:浅香正博)高上馬希重准教授, 宮崎大学(学長:池ノ上克)明石良教授らとの共同研究によるものです。

 

 マメ科の多年草であるウラルカンゾウは生薬として重要であり、伝統医学で最も使用されている薬用植物の一つです。ウラルカンゾウの根やストロンには、漢方薬の主な成分であるグリチルリチン酸が含まれています。グリチルリチン酸はトリテルペン配糖体(サポニン)3と呼ばれる一群の化合物の一つであり、さまざまな薬理作用を持ちます。生薬としてのウラルカンゾウの大部分は自生種を採集して調達されていますが、ほぼ100 %が中国からの輸入であり、価格の高騰や供給不安などから国内栽培が推奨されています。

ウラルカンゾウはマメ科であるため根粒菌と共生できます。この共生では根粒菌が大気中の窒素をアンモニアへ固定して植物へ栄養源として供給し、それに対して宿主植物は光合成産物をエネルギー源として根粒菌へ供給しています4。しかしこれまでにこの根粒共生が薬用植物カンゾウのグリチルリチン酸生産へ与える影響は調査されていませんでした。

 

 今回、研究チームはウラルカンゾウと共生を確立する根粒菌を単離し,そのゲノム構造を解析しました。さらに、その根粒菌をウラルカンゾウに接種して生育させると地上部の成長が促進され、根のグリチルリチン酸の生産が増強されることを突き止めました。これまで開発されてきたカンゾウの栽培方法の多くは植物の成長に主眼が置かれており、生産量(バイオマス)が多く且つグリチルリチン酸が多くなる栽培方法は未だに確立されていません。高等植物における二次代謝産物は、往々にして環境ストレスがかかった場合に高生産になることが多く、グリチルリチン酸生産にも正にそれが当てはまります。つまり高いバイオマスと高グリチルリチン酸生産の両立が難しい理由の一つは,それら2つの間にトレードオフの関係が存在するからです。研究チームは、ウラルカンゾウに根粒菌を接種して生育させると地上部バイオマス生産が促進され、さらに根のグリチルリチン酸量及びグリチルリチン酸生産の指標となる遺伝子の発現が上昇することを発見しました。これらの結果は,根粒菌接種という生物ストレスを用いることによって上記のトレードオフを見事に解消できることを示唆しています。

 ウラルカンゾウはその機能性ゆえに多くの漢方薬に配合されており、我が国は今後もウラルカンゾウの大消費国であり続けると予想されます。今回の研究成果は,根粒菌接種後90日程度のものですが,年単位の栽培試験においても効果が確認されれば,そのインパクトは極めて大きいものになると考えられます。

 

図:根粒菌をウラルカンゾウに接種すると、根には根粒が形成され根粒菌による窒素固定が行われる。根粒菌と共生することでウラルカンゾウの地上部の成長は促進され、葉の緑が濃くなる。さらに、根のグリチルリチン酸量は増加する。

 

 

本研究結果はPlant Biotechnology誌のAdvance online publicationに掲載されました。

トップページのURL: https://www.jstage.jst.go.jp/browse/plantbiotechnology/-char/en

 

【用語解説】

1ストロン

 走出茎とも呼ばれる。新しい植物を形成するために、根元から出た枝が地面に水平に伸び、途中の節から根を出して成長する。カンゾウのストロンと根は乾燥して生薬原料として利用される。

2グリチルリチン酸

 カンゾウの根やストロンに含まれる薬効成分。消化性潰瘍薬や去痰など多くの目的に利用される。また、砂糖の約200倍の甘みを持つといわれており、甘味料としても利用されている。

3トリテルペン配糖体(サポニン)

 トリテルペンにオリゴ糖が結合した配糖体。様々な植物中に含まれている。

4根粒及び窒素固定

 マメ科植物は土壌中に生息する根粒菌と共生して根に根粒と呼ばれる「こぶ」状の器官を形成し、そこで空気中の窒素をアンモニアに変換している。この反応を窒素固定という。ここで固定されたアンモニアがマメ科植物の主要な窒素源となっている。

 

 

 

 

【本研究内容についてコメント出来る方】

  川口 正代司 [自然科学研究機構 基礎生物学研究所 共生システム研究部門 教授]

   TEL/FAX:0564-55-7564  email: masayosi@nibb.ac.jp

 

【本件に関するお問い合わせ先】

  佐賀大学農学部 教授 鈴木章弘(研究全般について)

    TEL/FAX:0952-28-8721  email: azuki@cc.saga-u.ac.jp

    (緊急連絡先:090-2962-1872)

  東北大学大学院生命科学研究科 教授 佐藤修正(カンゾウ根粒菌ゲノムについて)

    TEL/FAX:022-217-5688  email:shusei.sato.c1@tohoku.ac.jp

  北海道医療大学薬学部 准教授 高上馬希重(薬用植物について)

    TEL/FAX:0133-23-1261   email:kojoma@hoku-iryo-u.ac.jp

  宮崎大学農学部 教授 明石良(マメ科植物について)

    TEL/FAX:0985-58-7257   email:rakashi@cc.miyazaki-u.ac.jp

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