日本各地の山椒は特色がある! ~世界で初めて、山椒をゲノムレベルで分類~
この度、佐賀大学、東京聖栄大学、兵庫大学等の研究グループが取り組んで参りました研究成果について学術論文として発表することとなりました。
【発表概要】
佐賀大学のギヌシカ・ペマラタナ(スリランカからの留学生)やその指導教員の永野幸生らの研究グループは、東京聖栄大学の福留奈美、兵庫大学の山﨑一諒らと共に、山椒のゲノムレベルでの分類を世界で初めて実施しました。朝倉山椒(兵庫県・養父市)、有馬山椒(兵庫県・神戸市)、高原山椒(岐阜県・高山市)、ぶどう山椒(和歌山県)など、各地に様々な山椒があります。「これら各地の山椒がどう違うの?」という問題を、最新のゲノム科学により解明しました。その結果、各地の山椒がそれぞれ興味深い特色をもつことが分かりました。本研究の成果は、各地の山椒のブランド化に活かされることが期待されます。本研究成果は、英国の科学雑誌「Scientific Reports」誌(ネイチャー・リサーチ社)に3月19日付けで掲載されます。
【論文情報】
雑誌名: Scientific Reports (ネイチャー・リサーチ社) (2021年3月19日オンライン掲載)
論文タイトル: Elucidation of Japanese pepper (Zanthoxylum piperitum De Candolle) domestication using RAD-Seq
著者: Maddumage Dona Ginushika Priyadarshani Premarathne 1, Nami Fukutome 2*, Kazuaki Yamasaki 3, Fumiyo Hayakawa 4, Atsushi J. Nagano 5, Hisataka Mizuno 6, Nobuo Ibaragi 7, Yukio Nagano 1*#
ギヌシカ・ペマラタナ 1、福留奈美 2*、山崎一諒 3、早川文代 4、永野惇 5、水野文敬 6、茨木信雄 7、 永野幸生 1*# (*は同等に貢献、#は責任著者)
- 佐賀大学、2. 東京聖栄大学、3. 兵庫大学、4. 農研機構、5. 龍谷大学、6. 岐阜農林事務所、
- 朝倉山椒継承会
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-85909-9
【背景】
山椒は、Japanese pepperと英訳され、「日本の食」を特徴づける香辛料です。日本及び朝鮮に分布しています。朝倉山椒(兵庫県・養父市)、有馬山椒(兵庫県・神戸市)、高原山椒(岐阜県・高山市)、ぶどう山椒(和歌山県)など、各地に様々な山椒があります。しかし、これらをDNAの情報を活用して、系統立てて分類し、特徴づけることは、行われてきませんでした。そこで、本研究では、最新のゲノム科学によりDNAの情報を活用して、この問題を解明しました。
【各地の山椒の特色】
本研究では、朝倉山椒(兵庫県・養父市)二系統、有馬山椒(兵庫県・神戸市)二系統、高原山椒(岐阜県・高山市)一系統、ぶどう山椒(和歌山県)一系統、高知の山椒一系統、その他の山椒、合計八系統に分類しました。以下に各地の山椒についてわかったことを紹介します。
朝倉山椒(兵庫県・養父市)
棘がない山椒は朝倉山椒と呼ばれています。この名前は兵庫県養父市八鹿町「朝倉」の地名に由来します。本研究で、兵庫県養父市に二系統の山椒があることがわかりました。
一つ目の系統は、畑で栽培され、森林にも生育しています。棘があるものもあれば、ないものもあります。古文書に兵庫県養父市八鹿町今滝寺の崖の上に生育している木が、朝倉山椒の起源であると記載されています。現在、この場所に生育している木も、この系統でした。また、「100年木」という古木もこの系統でした。
二つ目の系統は、畑でのみ栽培され、森林には生育していませんでした。全て棘なしです。この系統は、養父市を含む近畿地方で幅広く栽培されていました。また、接木によって殖やされているものが多いことがDNA情報からわかりました。優良な性質をもつ系統です。この二つ目の系統の起源地は不明です。少なくとも現在は養父市の森林には生育していませんが、かつては養父市の森林に生えていたのかもしれません。あるいは、日本や朝鮮の他の場所が起源地なのかもしれません。この謎は本研究で解明に至りませんでした。起源はわかりませんが、現在、幅広く「朝倉山椒」と言われているのは、この系統です。
有馬山椒(兵庫県・神戸市)
六甲山の湯槽谷と稲荷山に由来する二系統が栽培されていました。DNA情報から、両者は明確に異なるものであることがわかりました。
高原山椒(岐阜県・高山市)
DNA情報から、他の地域と異なるものが栽培されていることが分かりました。棘なしの山椒もありますが、これらは朝倉山椒とは異なるものでした。
ぶどう山椒(和歌山県)
日本で最も生産量が多いのがぶどう山椒です。ぶどう山椒は朝倉山椒から派生したという説がありましたが、本研究で、この説を否定しました。
高知県の山椒:新ブランド「佐川山椒」
高知県佐川町(後述の牧野富太郎の出身地)の伝統和菓子「山椒もち」を作るのに用いられている山椒が独自の系統であることがわかりました。しかし、この山椒には特別な名前がつけられていません。そこで、この研究成果に基づいて各方面と調整した結果、「佐川山椒」と名付けることになりました。
その他の山椒
その他、日本各地に様々な山椒がありました。この中には、棘なしの山椒もありますが、多くは朝倉山椒とは異なるものでした。
【科学的成果】
棘なし山椒は単系統ではない。
我が国の偉大な植物学者・牧野富太郎は棘なしの山椒をサンショウZanthoxylum piperitum (L.) DCの亜種とし、アサクラザンショウZanthoxylum piperitum (L.)DC forma inerme (Makino) Makinoと学名をつけました。つまり、牧野は棘なし山椒が単一系統であると考えました。しかし、「高原山椒」や「その他の山椒」の中にも棘なし山椒はあり、棘なし山椒は単一系統ではないこと、つまり亜種ではないことがわかりました。
栽培化が現在進行している
朝倉山椒の一つ目の系統、及び、有馬山椒の二系統は、畑で栽培され、森林にも生育していました。植物を栽培化するとき、森林に生育しているものを栽培化しますので、栽培化の第一段階を本研究で観察しました。
栽培化の第二段階では、優れた性質をもつ系統が各地に拡がっていきます。また、山椒のような果樹では、その際に、接木繁殖が用いられます。朝倉山椒の二系統目で観察されたのは、栽培化の第二段階です。近畿地方各地に、拡がり、接木繁殖されていました。
科学的に最も興味深いのは、現在進行している栽培化の様相を捉えることに成功した点です。
【社会的意義】
本研究で、各地の山椒に、それぞれ特色あることがわかりました。この中には今まで知られていなかった特色も含まれます。これら特色をブランド化に活かして頂けたら、幸いです。
(なお、本研究は公益財団法人 浦上食品・食文化振興財団のご支援により行いました。)
【本件に関するお問い合わせ先】
佐賀大学総合分析実験センター 准教授 永野幸生
電話 0952(28)8898 電子メール nagano (at) cc.saga-u.ac.jp