ユーラシア大陸における植物病原体の拡散経路を世界で初めて解明:かつての交易路であるシルクロードを辿る

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【研究者】

 代表者:大島一里(責任著者)(ohshimak@cc.saga-u.ac.jp

 分担者や協力者:川久保修佑(佐賀大学大学院農学研究科修士1年)(筆頭著者)

オーストラリア・シドニー大学Simon Ho教授他,中国など多数の国内外の共同研究者

 

【研究成果の概要】

 植物病原体でありアブラナ科野菜の重要病原ウイルスであるカブモザイクウイルスを四半世紀に渡って広大なユーラシア大陸より採集し,それらのゲノム構造を網羅的に解析しました。その後それらの膨大なゲノム構造について最先端のバイオインフォマティクスを用いて,分子進化,分子疫学,系統地理学的に解析しましたところ,本ウイルスは組換えや変異を繰り返しながら,17世紀頃から大陸を西から東へと様々な経路を辿りながら,またかつての交易路であるシルクロードも辿り,拡散してきたことが明らかになりました。

 本研究は,植物病原体として広大なユーラシア大陸における詳細な拡散経路を明らかにした世界で最初の報告であり,最近流行しているCOVID-19の様な急速な拡散とは異なり,農業史の発展と関わるような農作物の移動,人の移動そして国々で栽培されている農作物に影響を受けながら拡散してきたことを明らかしました。また最近COVID-19のゲノム構造から推測される変異ウイルスの世界各国での分布そして拡散(移動や侵入)について議論そして解明されてきているのと同様に,植物病原ウイルスの一種として変異ウイルスの分布そして拡散経路について世界で初めて明らかにしました。

 以上は,ウイルス学としての新知見として重要な研究であると同時に,植物病理学上そして農学上の知見からも,食料生産に関わる病害防除や抵抗性植物育種に今後影響を与える意義ある研究です。さらに,かつての文化的な交易路の役割についても明らかにした文理融合的な研究成果でもあります。

【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】

 米国科学アカデミー紀要

 Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA (PNAS)

 

【今後の展開】

 佐賀大学において四半世紀に渡り研究を重ねた責任著者(大島一里)の集大成研究ですが,研究を開始した当初最終目標にしていたのは,未来のウイルス進化,拡散や変異などを予測できるソフトウエアを開発し,ウイルス学や植物病理学の分野に貢献することでした。ただ,これだけ長い研究時間を費やしゲノム情報を集積してきましたが,まだゲノム情報の集積が足りないのか,或いは解析ツールの進歩が追い付いていないのか,最終目標まではたどり着けませんでした。近い将来,まずは人や動物ウイルスの分野でウイルスの未来進化が予測できるソフトウエアが開発され人類の生存に貢献することになると思いますが,今後の展開については類似の研究をしている世界中の研究者に託したいと思います。

 

【その他PRしたい特記事項】

 最終ゴールを目標に,本研究に携わる成果を,研究期間であった四半世紀の途中途中で報告してきたつもりです。そしてライフワークとしたそれらの集大成研究を今回世界的に著名な雑誌で公表できたのは幸運でした。これらの成果は,私大島と時間を共有してくれた多くの卒業生や現役の学生から創造され,またとても小さな研究室から生まれた佐賀大学発信の研究成果でもあります。さらに,個人では成し遂げることのできなかった研究でもあり,私の研究に永年協力してくれた国内外の多くの研究者のもとで成し得た研究で,携わって頂いた全ての方々に感謝しております。

 

【教員活動DBのリンク先】

 https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.d9e4832763b5fa2d59c123490551be02.html

 

 

【本件に関する問い合わせ先】

  佐賀大学農学部教授 大島 一里

  TEL:0952-28-8730

  E-mail: ohshimak(at)cc.saga-u.ac.jp

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