有明海の様々な海苔の全ゲノム解析を実施 ~世界で初めて、海苔を全ゲノムレベルで比較~

PRESS_RELEASE

【発表概要】

 佐賀大学の「地域の農水圏生物生産・利用技術等の高度化プロジェクト」において、永野幸生・木村圭らの研究グループは、有明海で生育している様々な海苔を主な対象に、全ゲノム解析を実施しました。海苔の様々な養殖品種の全ゲノムレベルでの比較は、これが世界で初めてです。本研究の結果、養殖品種は、遺伝的にとても類似していることがわかりました。遺伝的に類似している品種を用いて新品種開発を行っても、今後の気候変動に耐えうる画期的新品種を開発することは困難です。すなわち、今後、新品種開発において戦略の転換が迫られることになります。本研究成果は、米国の科学雑誌「PLOS ONE」に6月10日(日本時間)付けで掲載されました。

 

【論文情報】

  雑誌名: PLOS ONE (出版社:Public Library of Science) (2021年6月10日(日本時間)オンライン掲載)

  論文タイトル: Genomic diversity of 39 samples of Pyropia species grown in Japan

  著者: Yukio Nagano 1#, Kei Kimura 2, Genta Kobayashi 2, Yoshio Kawamura 2

  永野幸生 1#、木村圭 2、小林元太 2、川村嘉応 2 (#は責任著者)

    1.佐賀大学総合分析実験センター、2. 佐賀大学農学部

  URL: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0252207

 

 

 

【背景】

 極端な干満の差がある有明海は、海苔の養殖に適しています。そのため、佐賀県は海苔養殖が盛んであり、現在、販売枚数・販売額共に日本一です。地域への貢献を使命とする佐賀大学は、「地域の農水圏生物生産・利用技術等の高度化プロジェクト」を立ち上げ、平成29年から海苔研究に本格的に取り組んできました。

 新型コロナウイルスの検査において、大雑把な検査はPCRで行われ、詳細な検査は全ゲノム解析で行われていることは周知の通りです。海苔については、PCRによる研究は盛んに行われていましたが、全ゲノム解析を用いて、様々な養殖品種の差異を詳細に調べる研究はなされていませんでした。大学の使命は、最先端の研究手法をすばやく取り入れて、研究を推進することです。そこで、詳細な研究が可能な最先端研究手法「全ゲノム解析」を取り入れて、海苔研究に邁進して参りました。

 

【主な研究成果】

 本研究では、海苔のうち、養殖が盛んなスサビノリ(尻沢辺海苔、尻澤邊海苔)を主に調べることとし、有明海等で養殖されている品種、及び養殖場周辺から採取した野生株を中心に全ゲノム解析を行いました。

 ゲノムは、細胞内の葉緑体、ミトコンドリア、核の三箇所にあります。葉緑体とミトコンドリアのゲノムは、情報量が少ないけれども、得られたデータの解釈は容易です。一方、核のゲノムは、情報量が多いけれども、得られたデータの解釈は容易ではありません。

 

 そこで、まず、葉緑体とミトコンドリアのゲノムについて解析をしました。比較対象として、中国・山東省のスサビノリ野生株のデータも用いました。その結果、葉緑体とミトコンドリアのゲノム解析では、供試した日本のスサビノリ間のゲノムの違いは、中国・山東省のスサビノリ間のゲノムの違いに比べて、極めて小さいことがわかりました。すなわち、日本の養殖品種や養殖場周辺の野生株は、遺伝的にとても類似していたのです。

 次に、核のゲノムの解析を行いました。この解析でも、日本の養殖品種は遺伝的に極めて類似していることが、重ねて示されました。また、調べた野生株は、いずれも養殖品種と遺伝的に近縁でした。しかし、核ゲノム解析の分析能力は、葉緑体とミトコンドリアのゲノム解析に比べて圧倒的に優れていました。核ゲノム解析では、従来のPCR法では困難であった研究が可能になりました。例えば、本研究において、同一養殖品種内の遺伝的変化を追跡することに成功しました。

 本研究でわかったことは、養殖品種や養殖場周辺の野生株は、遺伝的にとても類似していることです。これらを用いて新品種開発を行っても、今後の気候変動に耐えうる画期的新品種を作出することは望めません。すなわち、今後、新品種作出において戦略の転換が迫られることになります。

 

【今後の展開】

 今回の研究で、全ゲノム解析法が高い分析能力をもち、海苔の研究に有効であることがわかりました。この手法を活用すれば、スサビノリの栽培化に係わる遺伝子の同定を行うことが期待できます。スサビノリの栽培化において、最も重要な出来事は、迅速に大きく成長する株が発見されたことです。しかし、これは偶然に起こった出来事であり、何故それが起こったのか、より科学的な言い方をすると、どの遺伝子が変化して、それが起こったのかが分かっていません。この遺伝子を同定することが、次の挑戦です。

 近年、国連のSDGs(持続可能な開発目標)を踏まえ、栽培化に係わる遺伝子に突然変異を導入することで、未利用だった植物を栽培・食用に適するものに変える研究が盛んになっています。世界に他種多様な海苔の仲間がいます。この中で、大規模な栽培化に成功したのは、日本のスサビノリと、中国のタンシサイ(壇紫菜)のみです。スサビノリの栽培化に係わる遺伝子の同定に成功すれば、他種多様な海苔の仲間から耐熱性のものを選んで、それを栽培化する研究を行うことが可能になります。

 

【教員活動DBのリンク先】

 永野 幸生  https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.95770e6d81df6030.html

 木村 圭   https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.66dc9d20979d5449.html

 

【本件に関するお問い合わせ先】

  佐賀大学総合分析実験センター 永野 幸生

  電話 0952(28)8898      電子メール nagano(at)cc.saga-u.ac.jp

戻る

TOP