高齢者の慢性骨髄性白血病には、薬は5分の1でも有効
【研究者】
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科 教授 木村 晋也
岩手県立中央病院血液内科長 村井 一範 他
【研究成果の概要】
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科の木村晋也教授らのグループは、70歳以上の高齢者慢性骨髄性白血病 (CML) 患者では、特効薬であるダサチニブ(商品名スプリセル)は標準的な治療量である1日100mgではなく、5分の1の1日20mgで開始し、効果や副作用を見ながら増減していくことで、より有効に、より安全に使用できることを多施設共同臨床試験で証明した。本内容は、「ランセット血液学」にオンラインで11月23日に発表された。
【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
Lancet Haematology(ランセット血液学)
【開発の背景】
CMLは難治性の血液がんであり、異常遺伝子BCR-ABLにより発病する。2001年にBCR-ABLを特異的に攻撃するABL阻害剤、メシル酸イマチニブ(商品名グリベック)が承認されるまで、造血幹細胞移植が成功する以外には完治する治療法がなく、ほとんど全ての患者が数年以内に亡くなっていた。しかし、イマチニブの登場によって劇的に予後は改善し、イマチニブを最初からきちんと服用すれば、ほぼ死なない病気となった。しかし、一部の患者でイマチニブが効かなくなる、あるいは副作用で継続できない患者もいた。そこで、より強力な第二世代ABL阻害剤であるダサチニブなどが開発された。その後、CMLと診断後最初からダサチニブを服用した場合、イマチニブより効果が高いことが報告され、CMLの一般的な治療薬となった。しかし高齢者、特に70歳以上の患者では、標準量の1日100mgを服用すると重篤な副作用が出現することが多く、治療法が確立されていなかった。実臨床では、適宜ダサチニブを減量して高齢の CML患者に使用することが行われてきたが、明確にどこまで減量をしてよいかは不明であった。そこで村井一範(岩手県立中央病院血液内科長)や木村晋也らは、全国25の病院と臨床試験グループ(DAVLEC)を作り、高齢CML患者に対するダサチニブの最適な投与量を求める研究を行った。
【研究の内容】
CMLに対する前治療歴がない患者に対しダサチニブを標準量の5分の1(1日20mg)という超少量で経口投与を開始した。その後、治療効果や副作用の発現状況に応じて、この開始用量を増減させた。治療開始後12カ月時点でのBCR-ABL遺伝子が治療開始前の0.1%以下になる分子遺伝学的大寛解(MMR)の達成率で効果を評価した。2016年11月1日から2019年10月30日の間に、52名の患者が1日20mgのダサチニブ治療を受けた。診断時の平均年齢は77.5歳であった。12ヶ月後のMMR率は31人(60 %) であった。23人(44 %) の患者は、十分な効果が得られたため、20mg より増量する必要が無かった。標準的な治療法では約 20 %の患者で認める重篤な好中球減少、血小板減少や胸水は、本試験では認めなかった。全年齢層を対象とした1日100mg のダサチニブの試験と比較して、DAVLEC試験では、より高い効果で、少ない副作用であった。
【今後の展開】
1日20mg という超少量での臨床試験は世界初めてであり、多くの高齢者では1日20mgで開始して良好な結果が得られることが示された。この結果が、日本以外の高齢CML患者でも同じであれば、他国の高齢CML患者も、より効果が高く、より安全に治療が受けられることになり、世界的な治療ガイドラインを塗り替えることが期待される。薬を5分の1にできるということは、安全性だけでなく、患者個人の医療費が減るだけでなく、国民医療費の削減にもつながる。
【教員活動DBのリンク先】
木村 晋也
https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.69b4741e14a547d0.html
【本件に関する問い合わせ先】
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科
教授 木村晋也
TEL: 0952-34-2366、 FAX: 0952-34-2017
E-mail: shkimu (at) cc.saga-u.ac.jp