推定1,000億匹以上:伊豆諸島におけるスダジイタマバエの大発生とその原因について報告
【研究者】
代表者:徳田 誠 准教授(佐賀大学農学部・鹿児島大学大学院連合農学研究科)
分担者や協力者:川内孝太氏(佐賀大学農学部)
松田浩輝氏(佐賀大学大学院農学研究科)
内藤明紀氏(三宅島アカコッコ館)
宗祥史氏(佐賀大学大学院農学研究科)
アイマン イルサイド 助教(佐賀大学農学部)
菊池健氏(八丈ビジターセンター)
小高信彦 主任研究員(森林総合研究所九州支所)
【研究成果の概要】
近年、伊豆諸島の一部の島において、スダジイの花枝に虫えい(虫こぶ)を形成するスダジイタマバエSchizomyia castanopsisae が多発生し、スダジイのドングリがほぼ見られない状況が続いています。本研究では、2011年から2018年にかけて伊豆諸島のすべての有人島でスダジイタマバエの発生状況や生息密度を調査し、大発生の原因について考察しました。
スダジイタマバエは、伊豆諸島南部の三宅島・御蔵島・八丈島・青ヶ島では極めて密度が高く、いずれの島でもほとんどの花枝が虫えいになっており、ドングリがほぼ見られない状況でした。一方、伊豆諸島北部では、式根島で虫えいの密度が高かったものの、それ以外の伊豆大島・利島・新島・神津島ではタマバエによる虫えいは低密度、もしくは全く確認されませんでした。ただし、伊豆大島や新島では調査年が新しいほど虫えいの確認頻度や密度が高くなっており、スダジイタマバエの生息域が北側の島々へと広がっている可能性があります。
三宅島の樹林の面積と、単位面積当たりのスダジイタマバエの幼虫生息数から、同島に生息しているスダジイタマバエの個体数を推定した結果、2017年は1580億匹、2018年は360億匹と推定されました。
スダジイタマバエは九州や南西諸島にも生息しており、九州では天敵の寄生蜂が確認されていますが、伊豆諸島ではいずれの島でもスダジイタマバエの虫えいから寄生蜂は全く確認されませんでした。また、遺伝子解析の結果、伊豆諸島の島々のスダジイタマバエでは1つの遺伝子型しか確認されませんでした。そして、その遺伝子は南西諸島にも存在するものでした。さらに、住民への聞き取り調査から、伊豆諸島南部では2000年代の前半頃からスダジイのドングリの凶作が続いていることが明らかになりました。
一連の結果を踏まえると、スダジイタマバエは比較的最近、南西諸島から伊豆諸島に何らかの経路で侵入し、天敵の不在により2000年代前半から大発生の状態となり、各島でドングリの凶作をもたらして続けていることが推察されました。
【研究成果の公表媒体(論文や学会など)】
掲載誌名:Entomological Science(2022年11月15日出版)
発行:Wiley
論文表題:A hundred of billions of silent outbreaks: A historic outbreak record of the gall midge Schizomyia castanopsisae (Diptera: Cecidomyiidae) on the Izu Islands, Tokyo, Japan, and its potential mechanism
【今後の展開】
スダジイは伊豆諸島に自生する唯一のブナ科植物であり、カラスバトやオーストンヤマガラをはじめ、様々な鳥類や昆虫類がドングリを利用することが知られています。ドングリの凶作が約20年続いていることにより、これらの生物の餌が不足している可能性や、スダジイの天然更新も妨げられている可能性があります。今後はタマバエの大発生が伊豆諸島の生態系に及ぼす影響を調査していくことが必要です。
【その他PRしたい特記事項】
本成果の一部はJSPS科学研究費(JP21780052、JP15K06937)および新技術開発財団植物研究助成によるものです。
論文へのリンク:https://doi.org/10.1111/ens.12524
佐賀大学農学部システム生態学分野(徳田)HP:http://systeco.ag.saga-u.ac.jp/Home.html/Home.html
【教員活動DBのリンク先】
徳田 誠 准教授
https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.1e89bf9ca7e18a8f.html
スダジイタマバエの成虫(左:オス、右:メス) スダジイタマバエによる虫こぶ(2011年、八丈島)
すべての花枝が加害され、ドングリがまったく形成されていない。
【本件に関する問い合わせ先】
佐賀大学農学部生物科学コース
准教授 徳田 誠
E-Mail:tokudam@cc.saga-u.ac.jp