ほとんど焼成収縮しない磁器の開発と収縮抑制メカニズムの解明

【研究者】
代表者:HAO DONG(佐賀大学肥前セラミック研究センター・助教)
赤津 隆(佐賀大学芸術地域デザイン学部/肥前セラミック研究センター・教授)
共著者:蒲地 伸明(佐賀県窯業技術センター・特別研究員)
稲田 幹(九州大学中央分析センター・准教授)
白石 敦則(佐賀県窯業技術センター・専門研究員)

【背景】
 一般に陶磁器は焼成工程における焼結により緻密化する一方で収縮・変形するため、陶磁器製品の寸法・形状を高精度に制御することは困難であり、それによって陶磁器デザインの自由度が大きく制約されるとともに、製品製造における歩留まりが低下する原因となっていました。本研究では、焼成工程においてほとんど収縮せず、同時にほとんど変形しない磁器を、肥前磁器の代表的な原料である天草磁器土を主原料として作製できることを明らかにしました。さらに、磁器の焼成収縮を抑制するメカニズムについても明らかにしました。

【研究成果の概要】
 天草磁器土に珪灰石、アルミナおよび蛙目粘土をバランス良く配合することにより、1300℃焼成後でも収縮率が2%以下という、見掛け上、ほとんど収縮しない磁器を作製できることが明らかになりました。さらに、それらのほとんどは焼成による変形が非常に小さい(焼成変形指数(Pyroplastic deformation index, PI)が1.5×10-6 mm-1 以下)ことも明らかになりました。
 通常の磁器の場合、焼成中に液相から晶出するムライト結晶が針状に成長して剛直な組織を形成することにより、1200℃以上で顕著となる焼成変形がある程度抑制されます。それに対し、本研究で開発した磁器では、珪灰石添加によってムライト晶出温度よりも若干低い温度(1200℃以下)からアノーサイト結晶が柱状に成長し、ムライトに先んじてアノーサイト柱状結晶による剛直な組織が形成されるため、焼成変形のみならず、焼成収縮まで大幅に抑制されることがわかりました。

【展望】
 本研究で開発した磁器では高精度に寸法・形状を制御できるため、これまで敬遠されてきたシャープなフォルムや薄手の磁器を思い切ってデザインすることが可能となります。さらに、大規模生産における歩留まり向上が期待されるばかりでなく、焼成収縮による変形や割れによって作製することが困難であった大型磁器の作製にも貢献できます。

【論文情報】
Hao, T. Akatsu, N. Kamochi, M. Inada, A. Shiraishi. Near-zero sintering shrinkage in pottery with wollastonite addition. Journal of the European Ceramic Society, 2023, 43(2), 700-707
https://doi.org/10.1016/j.jeurceramsoc.2022.10.037
https://authors.elsevier.com/a/1fxjA3PCJlLynJ(12月8日までの無料アクセスリンク)

【謝辞】
本研究は、科学研究費補助金 若手研究(21K12901)、佐賀大学戦略的に支援する特定プロジェクトと日本板硝子材料工学助成金に支援されました。

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学 肥前セラミック研究センター

 赤津 隆 教授
 TEL:0955-29- 8712
 e-mail:akatsu@cc.saga-u.ac.jp

 HAO DONG 助教
 TEL:0955-29-8718
 e-mail:su3234@cc.saga-u.ac.jp

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