細胞老化と加齢による骨量減少の新しいメカニズムの解明

【研究者】
 代表者:久木田明子(佐賀大学医学部 人工関節学講座・教授)
 分担者:村山雅俊(佐賀大学大学院医学系研究科・博士4年)
     馬渡正明(佐賀大学医学部 整形外科学講座・教授) 他

【研究成果の概要】
 私達の骨量は、破骨細胞という骨を壊す(骨吸収)細胞と骨芽細胞という骨形成を行う細胞による骨代謝によって調節されていますが、老化により骨吸収が骨形成を上回り骨量が減少することが知られています。近年、様々なストレスによって体内で細胞の老化がおこり、形成された老化細胞がRANKLなどの炎症性のタンパク質などの発現を増加させ、加齢による骨量減少に関与することが報告されていますが、そのメカニズムについてはまだ詳細はわかっていません。私達は、ストレスによって誘導されるNupr1というタンパク質の骨代謝における働きについて研究を行っており、今までに、Nupr1遺伝子を欠損したマウスでは、破骨細胞の形成が低下する一方、骨芽細胞の分化が亢進し骨量が増加することを明らかにしてきました(Shiraki et al. The FASEB J. 2019)。今回、Nupr1の老化による骨量減少の役割について明らかにするために研究を行いました。

 Nupr1遺伝子欠損マウスを使用して老齢マウスを作成し、加齢による骨量減少について野生型マウスと比較しました。その結果、特に雄のNupr1遺伝子欠損マウスでは野生型マウスと比較し加齢による骨量減少が緩和し、さらに骨細胞における老化細胞マーカ―や老化細胞が産生するRANKLの発現が顕著に抑制されていることがわかりました。これらの結果から、Nupr1が老化細胞形成を調節することによって加齢による骨量減少を亢進する可能性が示唆されました。

 さらに、Nupr1遺伝子欠損マウスと野生型マウスを用いて骨細胞が発現する遺伝子の網羅的比較遺伝子発現解析を行ったところ、Nupr1遺伝子欠損マウスの骨細胞で発現が顕著に低下するHtrA1というセリンプロテアーゼを見出しました。HtrA1は、Nupr1と同様にストレスによって細胞老化を誘導することが知られており、Nupr1を骨芽細胞で強発現させるとHtrA1の発現が亢進することから、Nupr1がHtrA1を介して老化細胞形成を誘導し、老化による骨量減少に関与することが示唆されました。また、Nupr1を欠損した骨芽細胞やHtrA1の発現を抑制した骨芽細胞では、SMAD1の活性化が亢進しており、Nupr1はHtrA1を介して骨形成シグナルを阻害すると考えられました。これらの結果から、Nupr1とHtrA1との新たな関係と骨形成と加齢による骨量減少に関与する新たなメカニズムが明らかになりました。本研究は、佐賀大学医学部人工関節学講座・整形外科学講座、フランスINSERM・エクス=マルセイユ大学、九州大学及び長崎大学との共同研究で行われました。

 

【研究成果の公表媒体】
 論文タイトル:Nupr1 deficiency down-regulates HtrA1, enhances SMAD1 signaling, and suppresses age-related bone loss in male mice.
  掲載雑誌名:Journal of Cellular Physiology, in press

【今後の展開】
 Nupr1とHtrA1はともに変形性関節症との関連が報告されていること、またHtrA1は加齢性黄斑変性症などの老化に関わる病気に関わることから、Nupr1とHtrA1の関係は様々な老化に関わる疾患のメカニズムの解明と新たな治療法の開発につながる可能性があります。

【教員活動DBのリンク先】
 久木田明子
 https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.0e58a703e54774b2.html

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学医学部人工関節学講座教授 久木田明子
 Tel: 0952-34-2343
 E-mail : kukita@cc.saga-u.ac.jp

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