バイオ3Dプリンターを使って新たな動脈硬化症研究モデルを開発しました

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【研究者】
 代表者:中山 功一(佐賀大学医学部附属再生医学研究センター・センター長/教授)
 分担者:永石 友公子(佐賀大学医学部脳神経内科医師/医学系研究科博士課程)他

 

【研究成果の概要】
 佐賀大学医学部附属再生医学研究センターの中山功一教授、医学系研究科博士課程の永石友公子らの研究グループは、ヒトの細胞のみから作られた、新しい動脈硬化症研究モデルを開発しました。
 この研究結果は、2023年6月20日に「Biofabrication」で公開されました。

 

○背景
 動脈硬化症は、加齢や高血圧症などの疾患を背景として、動脈壁の弾力性が失われて動脈の内腔が狭くなり、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となりうる疾患です。現在、進行した動脈硬化症に対して、有効な治療法は限られています。今回、新たな治療法や動脈硬化のメカニズムを研究するためのモデルを開発するための研究を行いました。

 研究グループでは、独自に開発したKezan method方式のバイオ3Dプリンターを用いた細胞凝集塊の積層技術により、細胞のみから構成される様々な器官や構造体の開発に取り組んできました。これらの研究成果をもとに、本研究ではヒトの動脈を構成する細胞から血管状の構造体を作製しました。

 

○研究結果
 ヒト由来の大動脈平滑筋細胞、内皮細胞、線維芽細胞から細胞凝集塊を作製し、バイオ3Dプリンターを用いてチューブ状にプリントしました。この血管状構造体を、無機リン酸や塩化カルシウムなどの石灰化誘導因子を添加した培地で培養すると、組織内部に石灰化領域が出現しました。また、石灰化が見られた組織では骨芽細胞様の形質転換が起きており、骨関連遺伝子であるMSX2、BMP2、Runx2といった転写因子の発現が上昇していました(図)。このことから、培地中のカルシウムが受動的に沈着したのではなく、能動的な石灰化が起きていると考えられました。血管状構造体は、石灰化誘導因子を与えることで、実際の動脈硬化症(メンケベルグ型動脈硬化症、または中膜石灰化硬化症)と類似した変化を起こすことが分かりました。

 また、培地に動脈硬化の治療薬であるロスバスタチンを添加して、無機リン酸誘導性の石灰化を抑制できるかどうか検討しました。今回の研究では、ロスバスタチンを添加しても石灰化の程度は有意な抑制が見られず、逆に石灰化が亢進する傾向が見られました。この原因として、ロスバスタチンの石灰化抑制効果より、細胞に対するアポトーシスを誘導する効果が強く出て、その結果組織の石灰化を亢進させた可能性が考えられました。


図. 石灰化した血管状構造体

培養中の血管状構造体、石灰化した血管状構造体のマイクロX線CT写真、アリザリンレッド染色、フォンコッサ染色(上段)。リアルタイムPCRの結果(下段)。Pi:無機リン酸添加群、Pi + Ca:無機リン酸、塩化カルシウム添加群。
スケールバー:1mm

 

○研究支援
 本研究は、公益信託 循環器学研究振興基金より支援を受けて実施されました。

 

【今後の展開】
 今回の研究では、ヒト由来の細胞のみからなる血管状構造体を作製し、これが新たな動脈硬化症研究モデルとなる可能性を示しました。今後、動脈硬化症の治療法開発や、動脈硬化症発症のメカニズム解明の一助となることが期待されます。

 

【発表論文】
・論文名
 Scaffold-free human vascular calcification model using a bio-three-dimensional printer
  doi.org/10.1088/1758-5090/ace000

・雑誌名
 Biofabrication

・著者
 Yukiko Nagaishi1,2, Daiki Murata1, Hiromu Yoshizato1,3, Toshihiro Nonaka1,3, Manabu Itoh4, Hideo Hara5 and Koichi Nakayama1

・著者の所属機関
 1.佐賀大学医学部附属再生医学研究センター
 2.佐賀大学医学部内科学講座脳神経内科
 3.佐賀大学医学部整形外科
 4.佐賀大学医学部胸部・心臓血管外科
 5.福岡国際医療福祉大学

 

【教員活動DBのリンク先】
 中山 功一
 https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.2269cb39c4aafa1859c123490551be02.html

 

 

【本件に関する問い合わせ先】
 佐賀大学医学部附属再生医学研究センター
 E-mail:info@nakayama-labs.com

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