絶滅が危惧される薬用植物「ムラサキ」の葉緑体ゲノムを完全解読しました

【研究者】
代表者:岡田 貴裕(佐賀大学医学部/助教)
分担者:渡邉 啓一(九州栄養福祉大学食物栄養学部/教授,佐賀大学/名誉教授)
研究協力者:矢崎 一史(京都大学生存圏研究所/教授),李 豪(京都大学生存圏研究所/博士)

【研究成果の概要】
 ムラサキは東アジア地域に分布する多年草であり、根の外皮にナフトキノン系の化合物「シコニン」を産生します。この化合物は優れた抗炎症活性・抗菌活性を持つことで知られ、ムラサキの乾燥根は古来より止血、解熱や解毒に利用されてきました。また、本邦では和紙や高官・高僧が身につける衣類を染色するための原材料として用いられてきた歴史があり、シコニンがもたらす鮮やかな紫色は高貴さの象徴として特別に扱われています。

 このように、本植物は私たちの生活や文化と深いつながりを持ち、かつては日本各地の山地草原に広く自生していました。しかし、自然環境の変化や乱獲の影響により、近年では環境省レッドブックで絶滅危惧種IBに指定されるまでに個体数が激減しています。また、1970年頃に中国から輸入されたセイヨウムラサキとの交雑も危惧されており、日本純系ムラサキの保存が急務となっています。

 保存活動を進める上で、在来種の判別や系統解析に適した遺伝子マーカーの開発は重要な課題のひとつです。この度、本学の岡田貴裕助教、九州栄養福祉大学の渡邉啓一教授の研究グループは、長野県原産ムラサキの葉緑体ゲノムを完全解読しました。一般に、葉緑体ゲノムは進化に対して高度に保守的であり、母親からしか次世代に受け継がれないという特性を持ちます。今回取得した情報をもとに、同グループは、対象とした在来種と同科の植物種との系統関係を推定するとともに、中国産品種との比較からムラサキの母系識別に有用なマーカー配列を発見しました。

 

 

 以上の成果は、ムラサキ葉緑体ゲノムの完全解読に関する初の報告であり、2024年1月17日に国際学会誌「Plant Gene」オンライン版に掲載されました。

 

【発表論文】
・論文タイトル
The complete chloroplast genome sequence of Lithospermum erythrorhizon: Insights into the phylogenetic relationship among Boraginaceae species and the maternal lineages of purple gromwells
(DOI:10.1016/j.plgene.2024.100447)

・雑誌名
Plant Gene(Elsevier;2024年1月17日掲載)

・著者

Takahiro Okada1, Keiichi Watanabe2

 1.佐賀大学医学部
 2.九州栄養福祉大学食物栄養学部

 

【今後の展開】
 日本国内のムラサキは減少の一途を辿っており、数少ない在来種が各地の植物園や大学機関などに保護されているような状態です。現在、各地で復興プロジェクトが進行中ですが、科学的な在来種の判別手段が確立されておらず、交雑種が誤って流通してしまう懸念があります。今後の研究では、母系マーカー配列の有用性を検証し、効率的な在来種の判別方法の開発に貢献したいと考えています。さらに、核ゲノムの遺伝的組成にも注目し、ムラサキの系譜や伝播の歴史を生物地理学的な観点から探究していきます。

【その他PRしたい特記事項】
○論文リンク
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352407324000027

【教員活動DBのリンク先】
https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.6ce179406c084d54.html

 

【本件に関する問い合わせ先】
 岡田 貴裕(おかだ たかひろ)
 佐賀大学医学部 分子生命科学講座 細胞生物学分野
 〒849−8501 佐賀県佐賀市鍋島5−1−1
 TEL:0952-34-2195
 E-mail:e7316@cc.saga-u.ac.jp

戻る

TOP