平成28年度佐賀大学学位記授与式式辞
先ほど学士、修士、博士の学位を授与された1592名の皆さん、佐賀大学を代表して心からお祝いを申し上げます。今日のこの日を迎えられた皆さんは、入学以来真摯に勉学に励み、本日、佐賀大学の学位を授与されました。
また留学生の皆さんは母国を遠く離れ、言葉や習慣など異なる環境の中でよく研鑽され、見事に学位を取得されたことに対し、深く敬意を表します。そして、昨年4月に隣県の熊本県で発生した大地震の被害を受けながら、勉学を継続させ、学位取得に至った学生もいます。心身共に困難な状況にありながら、強い信念の下、本日を迎えられた貴方がたにも、私たちが心から敬意を表し、祝福していることをお伝えしたいと思います。
このめでたき日を迎えるにあたり、これまで卒業生、修了生を物心両面から支えてこられたご家族の皆様にも、お祝いとお礼を申し上げたいと思います。卒業生の晴れの姿は我々教職員にとっても誇らしく映りますが、皆様にとっては、一層眩しく感じられるのではないでしょうか。
また、平素からご支援いただいている佐賀大学同窓会をはじめとする関係者の皆様、そして本日の学位記授与式に至るまで、学生の成長を見守ってくださった全ての皆様にも、心から感謝を申し上げたいと思います。
振り返れば、平成28年度は本学にとって非常に重要な年でありました。第3期中期目標・中期計画期間の初年度として、今後の本学の進むべき方向性を定め、数値目標を含む6年間の行動計画を公表し、実行に移しました。
また、実に50年ぶりとなる新学部、「芸術地域デザイン学部」を設置し、有田町をはじめとする地域の要請に応え、地域に必要とされる人材を育成する大学を目指し、新たな一歩を踏み出しました。
さらに、全国の大学関係者が利用可能なICT利活用教育の拠点であるクリエイティブ・ラーニング・センターを新設するなど、本学の強み、特色をさらに伸長すべく、様々な取組を開始しています。
この激動の1年をまもなく終えることになりますが、こうした中で、本日皆さんの門出を祝し、無事に新たなステージへ送り出せることを、学長として喜ばしく思います。
さて、皆さんを取り巻く現代社会は激動の時代、変化し続ける時代と言われています。アメリカのドナルド・トランプ政権が誕生したように、一つの事象を契機としてそれまでの定説や慣例が劇的に、しかも短期間のうちに変化する「不確実性の時代」が到来しています。
警鐘とともに予想された少子高齢化の進行、グローバル社会の到来は既に現実のものとなりました。近年目覚ましく進歩する情報通信技術や人工頭脳は、私たちの実生活へ瞬く間に浸透しています。そして、世界から注目を集める我が国の高度再生医療の進展は、これまでの常識を一変させることでしょう。
皆さんは、不断に変化する社会に適応していかなければなりません。社会の変化は更なる変化を誘引し、革新を繰り返し、新たな未来を創り出すからです。
本学で学び、体験し、実践し、その中で身につけたそれぞれの個性を、これからの新生活で余すことなく発揮し、一人ひとりの未来を創り出されることを期待しています。
そして、これから皆さんが迎える新たな年度は、本学が立地する佐賀県にとっても記念すべき年となります。
先日佐賀県は、明治維新150年を記念し、幕末維新期の佐賀の偉業や偉人を顕彰し、次世代の子供たちに継承していくことを目的に「肥前さが幕末維新博」の開催を宣言しました。そのために、県として10億円近い予算を計上すると発表しています。鍋島直正公をはじめとする郷土の賢人達が、明治維新に多大な功績を残し、日本の近代化を牽引した歴史に、改めて光を当てようというものです。
例を挙げれば、大隈重信、副島種臣、江藤新平とともに佐賀の四傑と称された大木喬任は、初代文部卿として近代的な教育制度の確立に尽力し、1872年に「学制」を制定します。これは、江戸時代の藩校や寺子屋、あるいは私塾で独自に教育が行われていた状況を改革し、フランスの学制を参考として全国を8つの学区に分け、6歳以上の男女に義務教育を課すという画期的なものでした。現在の日本の学校制度の基礎となり、世界屈指の速さで実現した明治日本の近代化を支えた優れた政策であったと言えます。
そして、我が佐賀大学はこの近代的教育制度のもと、1920年に設置された佐賀高等学校を母体とする歴史ある大学なのです。
こうした賢人を生み出した佐賀の地で学んだこと、この佐賀大学で学んだことに誇りを持ち、それを糧とし、変化し続ける社会にも柔軟に対応できるよう、生涯にわたって見識を深め、自らを高める努力を継続されることを祈念します。
郷土の賢人の一人である大隈重信侯は総理大臣を2度経験した他、早稲田大学を開設したことでもよく知られていますが、早稲田の前身東京専門学校の卒業式において1897年、「諸君はこの名誉ある卒業証書を貰って社会に出て行くが、そこには数々の敵がたくさんいる。この敵に向かって諸君は数々の失敗をするだろう。しかし、失敗に落胆してはいけない。失敗は大切な経験である。この経験が成功をもたらす。そして、この複雑な社会の大洋において、航海の羅針盤となるのは学問である。諸君はその必要な学問を修めたのである。」という式辞を行い、卒業生を鼓舞しています。
時代は変わっても学問の有用性は変わりません。本学で学んだことに自信を持ち、困難に直面しても歩みを止めず、さらに前に進んでほしいという願いを込めて、式辞といたします。本日は、誠におめでとうございます。
平成29年3月24日
国立大学法人佐賀大学長 宮﨑 耕治