『佐賀大学メールマガジン第29号』“学長からのメッセージ”原稿
少子化と文系改組
佐賀大学長 長谷川 照
ここ数年の入学志願者の減少は予測していたことですが、昨年度は少子化の到来を実感し、今年度になると一層拍車がかかり深刻な様相を呈しています。佐賀大学も昨年に比べ750名の減少となり、とくに理工学部の大幅な減少(400名)が目立ちました。
少子化の傾向は工学系の志願者減に端的に現れています。国の科学技術立国を反映して工学系学部は全国に配置されたため、学生定員数の多さが少子化の影響を最も受けました。国立大学法人の工学系学部の入学競争倍率は2倍弱から3倍強の間にあり、ほとんどの工学系学部は入学生の定員割れを招く危機的状況にあります。
さらに、受験生の大都市集中化が進みそうです。入学競争倍率で見ると、例えば、東京、大阪などで4倍の学部は九州では3倍に相当するように思われます。大都市に集中している国公私立の名門大学、有名難関大学に入学できる可能性が大きくなってきたと考えられます。 佐賀大学も志願者増の対策を考えねばなりません。抜本的な教育改革が必要です。小手先の戦術では活路は開けません。情報化社会といわれる現代、「生の情報」、「生」という言い方は正確ではありませんが、溢れています。しかもその伝達の速さは目を見張るものがあります。数年前まで、新聞だとか雑誌を通じて、かなり編集された情報がゆっくりと流れていました。今日では、インタ-ネット等の電子媒体が情報の流れの中心になり、多少編集者の思惑が入っているとしても以前より「生」の程度の高い情報となっています。現代は大量のしかも速く伝わる情報を如何に取捨選択するかが問われる時代です。情報化時代の高等教育のテ-マはここにあると思います。現代の若者は、大量に生産される「生の情報」に囲まれながら、大学で専門分野の精緻な知識と技術を学びます。これらの専門知識と技術を「大量の生の情報」に結びつけることが重要なテ-マとなるでしょう。このテ-マは「社会で活躍を展望できる」教育に繋がっています。
このような観点から、私は従来の学部の慣習に囚われない、新しい教育体制を創りたいと考えています。学部改組のはじめとして、文化教育学部と経済学部の皆さんに「文系の改組」をお願いしているところです。将来、国際社会で活躍を約束する学部、新しい地域社会を創造する学部、文化を大切にする人を育てる学部、に改組していただきたいと考えます。新しい学部は、互いに協力して大量の情報を扱いこなす判断能力を養い、現代の若者のこころを掴む教育に取り組むことを期待しています。